3Dプリンターと手仕事をフュージョンする
——イリス・ヴァン・ヘルペンの掲げるクラフトルーションとは

2024年6月、パリ・オートクチュール・ファッション・ウィーク中に発表されたイリス・ヴァン・ヘルペンの「ハイブリッド・ショー」。彼女は長い間アートとファッションの共生に取り組んできた。この「空中に舞うアート」はさながら欧州の大聖堂を飾る中世の彫像を彷彿とさせる。

ビヨンセ、レディ・ガガ、ビョークといった歌姫たちが愛するオートクチュールと聞くと、私たちとは縁遠い世界に聞こえるかもしれない。しかし、イリス・ヴァン・ヘルペンは、3Dプリンターをはじめとするテクノロジーと伝統的な職人技を駆使する「クラフトルーション」をコンセプトに掲げ、新しい服飾のあり方を創造し続けるオランダ人デザイナーだ。

3Dプリンターを駆使した衣服

ファッションショーという言葉から私たちが想像するのは、モデルたちがランウェイをキャットウォークする光景だろう。しかし、今年6月、パリ・オートクチュール・ファッション・ウィークにおけるイリス・ヴァン・ヘルペンの「ハイブリッド・ショー」は、約45分間のアートインスタレーションだった。5つの新作ドレスを身にまとった5人のパフォーマーが、宙に浮く巨大キャンバスを背に、まるで「生きる彫刻」のごとく優雅に服を披露したのだ。

「通常のファッションショーは、短時間でコレクションのすべての作品を発表しなくてはいけませんが、それではクチュリエの職人技を見せることは不可能です。私は常々、美術館の展覧会のような形式のほうが、自らの作品に合っていると考えていました」(ヴァン・ヘルペン)。