ミラノに拠点を移し、更なるチャレンジに向かうフォルマファンタズマ

フォルマファンタズマの活躍が顕著だったミラノデザインウィーク2024。パラッツオヴィスコンティを会場にしたフロスの新作発表は実に36年ぶりであったが、その中心で活躍したのも彼らだった。そこでは36年前のデザイン·マニフェストへのオマージュである「design triangle」というビデオが流され、マイケル・アナスタシアデス、バーバー・オズガビーとの対話も行われた。

アムステルダムからミラノに活動の拠点を移したフォルマファンタズマのアンドレア・トレマルキとシモーネ・ファレジン。デザインを歴史、政治、環境などのリサーチに基づいた観点から取り上げる彼らの制作姿勢はデザイン界に新しい価値を見出している。
 
シチリア島出身のアンドレアと北イタリア、ヴェネト出身のシモーネはフィレンツェの公立デザイン教育大学であるISIA(Istituto Superiore per le Industrie Artistiche)で出会った。その後、ふたりでオランダのアイントホーフェンにあるDAE(Design Academy Eindhoven))に留学。アムステルダムでの約10年の活動から、2022年に祖国イタリアへ拠点を戻した。
「オランダでの教育は自分たちにとって、とても重要でした。イタリアではデザインは学生が産業界に出るための勉強だったけれども、オランダでは世の中で自分のポジションを考えるためのアカデミックなものでした。社会学なども学び、デザインのシステムについてクリティカルな議論もしてきました。自分の声で批判ができるようになったと思います」とシモーネ。80年代以降、正直イタリアでのデザイン教育は魅力的でなかったと語る。
「先生が『これをどうやって制作するか?』とディテールとプロセスを突き詰めるところでした。一方オランダでは『どんなデザイナーになりたいか?』という問いから始まる。まったく違った視点でした」とアンドレア。
それでもイタリアを逃げ出したわけではなく、オランダを拠点にイタリアからの仕事も受けていた。自国の良さも熟知している彼らはパンデミック前から、デザインのメッカであるミラノでの拠点を探していたそうだ。10代の頃からアートやデザインに興味があったシモーネ、工芸や歴史への関心が高かったアンドレアのふたりは、アーティスティックで直感的なセンスとリサーチの蓄積、そして社会に向き合う姿勢というバランスの取れたコンビネーションを備えてイタリアに戻ってきた。

シリーズ「Behind the doors」で紹介されたフォルマファンタズマのミラノのスタジオ。「アサッブ・ワン」という文化施設内にある。

新作「Super Wire」
フロスとのLEDライトの展開

フォルマファンタズマとフロスの開発チームとの関係は、2017年発表の「Wire Ring」から始まった。
「僕らはまだフロスがファミリービジネスだったころから製品のためのリサーチと開発をしてきました。Wire Ringはちょうど技術的にLEDで色々なことができるようになった、エキサイティングな時期に発表しました。ケーブル自体はあまり考えていなかったけれど、リングと同じ仕上げの電源ケーブルというアイデアに落ち着きました。今回発表したSuper WireはWirelineと同じような技術が導入されています。LEDのフィラメントの実験をしていたときにその存在感と柔軟性が気に入って、取り外し可能な光源として使用することをイメージしました」とシモーネは語る。
平面ガラスとアルミニウムを使用したこの照明は、LEDの白みがかった冷たい光源とは対照的な、アットホームな暖かい光を放つことを目指したデザイン。六角形のモジュラーにより360度方向に光を放つLEDライトは45cmと75cmの長さが選択できる。ネジで留めているだけなので、光源の交換は非常に簡単にできる。
「システムとして設計されているSuper Wireはフロアの照明やテーブルランプとしても使えますし、特注により天井から吊り下げる大きなシャンデリアのようなオーダーもできます。多種多様なカスタムソリューションに対応できると思います」とアンドレア。シンプルなマスプロダクトながら、修理が簡単で持続可能、さらにエレガンスを備えたSuper Wireはフロスの定番製品となりそうだ。

ミラノデザイウィーク2024、パラッツォヴィスコンティでのSuper Wireの展示。


LEDライトはネジで留められているため、交換も簡単に行うことができる。

フロスから発表になっているフォルマファンタズマのLED照明、間接照明のウォールランプWire Ring (2018)

ゴム製のベルトが電源ケーブルをカバーしているWireline(2019)。

持続可能な新しいエステティック、
アルテックの「フォレスト・シリーズ」

今年の秋、フィンランドのアルテックがロングラン家具「スツール60」を発売する。フォルマファンタズマとのコラボレーションだ。「フォレスト・シリーズ」という名のこのシリーズは、気候変動の影響に対する深い懸念が考慮されている。フィンランドの森林保護に対する配慮として、節、虫食いのあと、色の変化といったバーチ材の自然な変化を考慮し、いわゆる不完全であることの自然美をアピールしている。

アルヴァ・アアルトのマスターピース「スツール60」は“野生の白樺を取り入れることで新たな美意識の世界を提示する。
「プロダクションも展示もリサーチも私たちは同じ姿勢で取り組んでいますよ。例えばアルテックとの仕事は4年の長いリサーチとなりでアカデミックな取り組みとなりました」とアンドレア。エコロジカルフットプリント(※人間の活動が地球環境に与えるダメージを指標にしたもの)をテーマとしたアルテックのプロジェクトは、現代社会や消費そのものに疑問を投げかけている。既存の美学の定義を根本から覆す、アンドレアとシモーネの更なる表現の世界から眼が離せない。

取材協力:FLOS Japan