都市と緑の蜜月
大阪に誕生した未来都市「グラングリーン大阪」

「グラングリーン大阪」サウスパークの全景。Photo by Akira Ito.aifoto

大阪・JR大阪駅前に公園、オフィス、ホテル、商業施設、住宅からなる複合施設「グラングリーン大阪(GRAND GREEN OSAKA)」が2024年9月6日(金)に先行まちびらきを迎えた。同施設は、先行開発区域「グランフロント大阪」と合わせて20年にわたるうめきた地区の再開発プロジェクトの第2期開発。約9haの敷地のうち約4.5haを公園にする大胆な計画を実現したこのプロジェクトは、わずか3日間のうちに大阪市の人口の約20%に相当する50万人が来場するという盛況ぶりを見せた。本記事では、9月3日(火)メディア向けに公開された先行まちびらきの様子からランドスケープデザインについてレポートする。

都市と緑をひとつにした都市型公園

グラングリーン大阪の全景。画像中央の道を挟んで左側がサウスパーク、右側がノースパーク。今回は、サウスパークとノースパークの一部エリアが先行まちびらきを迎えた。全体まちびらきは2027年度の予定。Photos by GGO

JR大阪駅から10分ほど歩くと、グラングリーン大阪に辿り着く。青々とした一面の芝生と空が広がる開放的な気持ちのいい場所というのが第一印象だ。敷地内では、SANAAが設計した「大屋根」や安藤忠雄が設計監修した「VS.」など弊誌でお馴染みの建築家が手がけた建築も楽しむこともできる。この場所の最大の特徴は「公園の中にまちをつくる」というランドスケープファースト思想で緑と建物が一体化するように設計された空間にある。ランドスケープの設計を手がけたのは、シアトルに拠点をもつランドスケープデザインスタジオ GGN。地域の歴史や文化、地形を入念にリサーチし、うめきた地区に適したデザインを導き出した。GGNは、今回のプロジェクトについて次のように語っている。

「グラングリーン大阪が建てられたこの場所は、もともと操車場で、建設当時はなにもない土地と言われていました。しかし、アスファルトをはがすと隣接する淀川に育まれた豊かな大地が眠っていたのです。私たちは、大阪に暮らすひとびとと自然によって醸成されたこの大地を起点にして、都市と緑がひとつなぎに感じられるような設計を進めていこうと考えました。最も特徴的なのは、約3mのランドフォーム(盛土)で、これは日本庭園でよく見られる築山をイメージしています。高低差を利用して、大阪の都市と敷地内の緑が同時に見えるように工夫しました」(GGN)。

敷地内には、320種類以上の植物が植栽されている。

植栽計画もランドスケープを形づくるうえで重要であったという。「今回は、ヨーロッパでよく見られる、同じ種類の木を一面に植えて単一の色で揃えるといった人工的な美しさを演出する手法は採用していません。リサーチを重ねるなかで秋の里山で見られる赤、橙、黄色、山吹色などの木々が織り成す色のレイヤーからは、日本独自の美しさが感じられることを発見しました。美しさだけでなく、この場所に親しみを感じてもらえるように大阪の在来種であるさまざまな木を植えて、四季の移ろいが感じられるように里山の情景を演出しています」(GGN)。

つづけてGGNは、周辺に住んでいる方や働いている方にとって生活の一部となるような公園になってほしいとグラングリーン大阪への想いを語っている。「同じひとでも気分が明るいときもあれば、暗いときもあると思うので、陽のよくあたる活気づいた場所や木や植物の木陰に癒される静かな場所など、その日の気分に合わせて過ごせるような場所づくりも意識しています。いろんな場面で活用していただけると嬉しいです。インスタグラム用の写真を撮って終わりという場所ではなくて、何度も訪れてもらえる場所になることを願っています」(GGN)。

公園でなにしよう?

「PLAT UMEKITA」からはサウスパークを一望できる。 Photos by Kenji Utsugi

グラングリーン大阪に訪れたら、最初に足を運んでほしい場所が、SANAAの大屋根の下にある「PLAT UMEKITA」だ。TOPPANが企画運営するこの施設では、公園や大阪のまちの魅力を発信する「INFO」、先進的なモノ・コトの紹介やワークショップを通じて新しいアイデアや仲間を見つける「IDEA LAB.」、企業や教育機関が新しい価値観を伝える企画展示で共創を促す「GALLERY」3つの機能が備わっており、”エシカルテインメント”(エシカルとエンターテイメントをかけ合わせた造語)をテーマにさまざまなプログラムが日々開催される。未来のあそび場をコンセプトに掲げる同施設では、公園での過ごし方や遊び方だけでなく、これからの未来をより楽しく過ごすための知恵についてもエシカルやウェルビーイングなどの新しい時代の価値観とともに知ることができる。

「PLAT UMEKITA」のエントランス。ここでは、モルックやスマホ用レンズ、遊べるレジャーシートなど芝生の上で楽しめるグッズの有料レンタルも予定されている。ぷらっと立ち寄って、スタッフに穴場スポットを聞いたり、レジャーシートを借りるというような利用も可能だ。

SANAAの建築の中にどのような空間がつくられたのかも気になるところ。同施設のクリエイティブディレクター 折尾大輔に施設のコンセプトや空間デザインの考え方について話を聞いた。

「TOPPANと聞くと印刷業をイメージされる方が多いかもしれませんが、実はデジタルを含む幅広い情報コミュニケーション事業も行っています。PLAT UMEKITAは、大阪で暮らす生活者と企業をつなぐ“体験型共創プラットフォーム”として持続的なまちづくりに貢献していきたいという想いで開設しました。また施設空間のデザインについては、移り変わりの激しいトレンドや新しい価値観にできるだけ応えられるように“フレキシビリティ”をコンセプトにしています。この施設には、『INFO』『IDEA LAB.』『GALLERY』3つの機能がありますが、どの機能がどこにでも移動できるように、固定の場所をつくるようなゾーニングはあえてしていません」(折尾)。

施設内に設置されているサイネージ。4面合わせてh2m × w14mと画面が大きいため、屋外からも表示内容を見ることができる。

公園に転がる「石ころ」をモチーフにつくられた什器。コンクリートやスポンジ、コルクなど暮らしを取り巻くマテリアルが使用されている。

施設内の什器デザインについても注力したと折尾は言う。「フレキシブルであることに加えて“都市と自然の融合”という全体のテーマがあり、それぞれをシームレスにつなげることを重要視しました。同じ考え方で、例えば室内に設けられた大きなサイネージのキービジュアルは、一見ビビットな色合いで派手な印象がありますが、『ムーンブルー(夜の月の色)』と『サンピンク(朝の太陽の色)』でグラデーションをつくって、都市の生活や陽のうつり変わる様子を表現しています。什器に関しても、都市と自然のテクスチャーが感じられるように、カウンターや椅子、ベンチなどをいちからデザインしました。使用している素材も、もともとこの場所にあった土や廃材を再利用し、サステナブルであることを意識しています」(折尾)。

折尾大輔(おりお・だいすけ)。TOPPAN 情報コミュニケーション事業本部 ビジネストランスフォーメーションセンター エクスペリエンスデザイン本部に所属。PLAT UMEKITAのクリエイティブ・ディレクターを担当。

折尾は、PLAT UMEKITAを企業や大学などの教育機関と地域住民がつながる集会所のような場所にしていきたいと今後の展望をつづけて語ってくれた。「PLAT UMEKITAは誰もが訪れることができるパブリックスペースの中にあり、緑に囲まれた心地よいシームレスな空間デザインを有しています。この場所だからこそ、地域住民、学生、ワーカーなど、さまざまなひとびとと交流することができる。新たなコミュニティやシナジーの創造にもつながると期待しています」(折尾)。

ネットニュースやSNSを見ていると緑や公園が少ないと言われていた大阪に新たな憩いの場所が誕生したことを喜ぶひとびとが多いことが伺える。この場所が、3年後、5年後、どのように育っていくのか引き続き注目していきたい。(文/AXIS 西村 陸)End