一企業ではなく、産地が一体となって支える家具づくり
国際家具デザインコンペティション旭川

2024年6月19日から9月29日まで開催中のIFDA2024入賞入選作品展

1990年に始まり、3年に一度、商品化を視野に入れた木製家具のデザインを、国内外から募ってきた「国際家具デザインコンペティション旭川」(以降、IFDA)。12回目の今年は世界38の国と地域から、655点のデザインが寄せられ、去る6月に審査委員長の藤本壮介を含む5名の国際審査委員による審査が行われ、受賞デザインが選出された。

最終プレゼンテーションを経て、作品に触れて検討する審査員たち。左から、タッカー・ヴィーマイスター、廣村正彰、藤本壮介、アン・ルイス・ソマー、マイケル・ヤング

家具のデザインコンペティションは世界各地で開催されているが、IFDAの特徴はデザイナーから寄せられたデザインに対して主催者側が試作品を製作するところだろう。IFDAを主催するのは旭川家具工業協同組合。旭川地域を拠点にする家具メーカー40社(2024年8月現在)からなる組織だ。コンペティションでは、CGレンダリング画像の応募作品を5名の審査員がオンライン上で予備審査を行い、結果、最終審査に15点の作品が進んだ。そのうちの3点はデザイナーが自ら試作品を手がけ、残り12点は組合の企業が挑戦したい作品に手を上げるかたちで試作を製作した。

組合企業とベテラン職人が集う試作検討会。一企業の枠を超えて家具づくりのノウハウが共有される

通常はデザイナーが試作をつくりコンペティションに応募することが多いなか、メーカーが代わりにつくるのは、商品化を念頭に置いたデザインの実現性、強度などをつくり手自らが検証するためだ。一次試作を経て今年4月には、メーカーの試作担当者とIFDA関係者が寄り合い、講評会が開かれた。そこではIFDA会長である匠工芸の桑原義彦やベテラン職人が、メーカー担当者に対して試作づくりのアドバイスをした。家具としての安全基準や強度などを再検討し、審査員に披露する6月の本審査に向けて、組合企業が総力を挙げて試作品の改良にあたったという。こうした一企業を超えた、家具づくりのノウハウの共有が家具工業協同組合の強みだ。

6月に旭川デザインセンターで開かれた15作品の最終プレゼンテーションの様子

例えば、ゴールドリーフ賞を受賞した「ハグ チェア」は、「これは家具なのか?」とIFDAの関係者を戸惑わせた彫刻的な造形が特徴の椅子だ。5軸のCNCマシンを駆使し、有機的な曲線を描く椅子づくりを得意とするカンディハウスが手を上げ、試作に挑んだ。しかし、この形を一本の丸太から削り出すことは加工のうえから現実的でなく、CNCで刃をつかんでいるヘッド部分がうまくカーブに沿うように加工面を変えて、4つのパーツに分けて削り出し、接着することでひとつの彫刻のような椅子に仕上げた。

ゴールドリーフ賞を獲得した「ハグ チェア」、デザインはシュ・ユコウ(中国)

シルバーリーフ賞の「U armchair」は日本の伝統的な建築の概念を家具に落とし込んだ椅子だ。27mm角を使った椅子は、縦と横のシャープな線が神社建築の建具にも通じる。デザインでは当初、座面と強度を保つための幕板の接合部にビスを用いていたが、試作を担当したフレスコはそれでは壊れやすい考え、日本建築の建具に用いられるホゾ組で組み立てたという。チェストやキャビネットといった箱もの家具を長年にわたり製作するメーカーらしい解決策と言える。しかし、筆者にとって意外だったのはビーチ材という樹種の選択だった。日本建築に多く用いるスギ、ヒノキといった針葉樹ではなく、欧米の家具で一般的に使われる広葉樹のビーチを用いている。それはデザインした北原悠唯が、「製品化した際、海外でも広く受け入れてもらいたい」と考えたからだ。

シルバーリーフ賞「U armchair」、デザインは北原悠唯

日本の森林には針葉樹が多いが、実は北海道には開拓時代からビーチ、オークなどの広葉樹も多く生育する。英語で広葉樹をハードウッドというように、硬く、耐久性に優れるため家具に重宝される。1980年代には北米における北海道産オークの需要が高まり、輸出していたほどだ。

そうした道産の広葉樹は、海外のデザイナーにとっても惹きつけられる素材。ブロンズリーフ賞を受賞したテーブル「ドラギ」はシナ材を使い、「海外の広葉樹と比べて日本の広葉樹は合板の目でさえも美しい」と応募者のコンラッド・ロヘナーは感心していた。椅子のデザインの応募が多かったなか、ロヘナーは「椅子はパーソナルな要素が強いが、テーブルは人が集う環境をつくる、社会性の高い家具。パンデミックを経て、人と人が一堂に会することの大切さを多くの人が感じているはず」と語った。

テーブルは天板を積層合板にし、組み立てや解体がしやすく、配送も配慮したデザインだ。試作は天然木の木目を生かしながらも、0.2~0.3mmほどのシート状にスライスした突き板を合板の化粧材にした家具を生産してきたWOW(ワオ)が担当した。突き板はもともとヨーロッパで木の資源の有効活用のために考案された技法で、質実剛健さを大切にするドイツ出身のデザイナーらしいデザインと言える。

ブロンズリーフ賞「ドラギ」、デザインはコンラッド・ロヘナー(ドイツ)

同じく、ブロンズリーフ賞を受賞した「ドロワー アンド シェルフ」は、棚を差し込む向きを互い違いにすることで棚を引き出したときに棚同士が直角をなし、一般的な棚には見られない表情を生む。また、棚が引き出せることで棚枠に上下2段分の空間が生まれる。その姿はどこか高層建築のテラスを思わせるものであり、物の置き方にも変化が生まれそうだ。試作には、棚や箱もの家具を多くつくるコサインが手を上げた。棚板を挟むスリットの厚みをデザイン通りに試作し、引き出した棚板の上に重い物を置いたところ、スリット枠が割れそうになったという。そこで、棚板が収まるスリット下部に厚みを持たせることで、4kgまでの荷重を引き出した棚板にかけても安定するように改良した。

ブロンズリーフ賞「ドロワー アンド シェルフ」、デザインは可児美帆

IFDAで受賞したデザインを含め、最終選考に残った15点は、旭川家具工業組合のどのメーカーでも商品化することができる。こうしたIFDAの取り組みは、組合企業の家具職人にとって技術と思考を切磋琢磨する貴重な機会になっているだろう。それは、コペンハーゲンの家具職人組合が、1927年から開催していた家具のデザインコンペティションに通じる気がする。コペンハーゲンのデザインコンペティションは、家具職人の技術向上、そして世界市場におけるデンマークの家具産業の躍進を目的に開催され、ハンス・ウェグナーのCH24やThe Chairといった70年近くたった今でも製造される名作を輩出し、デンマーク家具の黄金時代に寄与したとされる。IFDAにも、木製家具に必要な素材と技が集約する産地、旭川から長年愛される家具の名作が生まれることを期待したい。End

表彰式の模様。ゴールドリーフ賞300万円、シルバーリーフ賞100万円など、各賞に賞金も授与される