Airbnb共同創設者のジョー・ゲビア氏が語る
「未来の住まい」

これからの住宅のありようを展覧会として提示する「HOUSE VISION」。その第2回展が2016年7月に開催されることが発表された。参加が決まっているなかで、唯一の日本国外の企業がAirbnb。「HOUSE VISION」の記者発表のために来日したAirbnbの共同創設者であり、チーフ・プロダクト・オフィサーのジョー・ゲビア氏に、Airbnbが考える未来の住まいについて尋ねた。

▲ ジョー・ゲビア氏はロードアイランド・スクール・オブ・デザインで、グラフィックとインダストリアルデザインの学位を取得。共同創設者のブライアン・チェスキー氏も同校インダストリアルデザイン学科の出身だ

インタビュー・文/長谷川香苗


▲ サンフランシスコにあるAirbnb本社オフィス


Airbnbが「HOUSE VISION」展に参加する意義についてお尋ねします。

Airbnbは居住空間を持つ世界中の人々が、空いている空間を“宿貸し”し、旅をしたい人が“宿借り”することができるプラットフォームです。その宿は住宅のなかの一部屋のこともあれば、お城丸ごとであることもあります。

そうした居住空間は現在、世界190カ国以上、約34,000都市に広がり、6,000万人もの人が“宿借り”をしています。2008年にこの仕組みをスタートさせて以来、さまざまな居住空間を見てきたわけですが、住まいに対する人々の捉え方、使い方が変わってきていると感じています。住まいを扱うAirbnbにとって、これからも変わっていくであろう住まいに対する考え方を探るために、「HOUSE VISION」ほど恰好の場はないと考えたのです。


「HOUSE VISION」では建築家の長谷川豪さんと組むことが発表されました。住宅についてどのようなことを考えていきたいと?

今はまだ構想段階ですが、パブリックな空間とプライベートな空間の関係について探っていきたいと思っています。これまでは住宅の外がパブリックで、中がプライベート、という認識があったと思います。そして住宅というのは家族、親族同士が暮らす場所でした。

しかし、今は見ず知らずの人と同居することを躊躇しない人も多い時代です。そうなると住宅とはパブリックな空間なのか、パブリックとプライベートの境目はどこにあるのか、こうしたことに関心が向かいます。これまでの住まいの定義が崩れ、従来の住まいとは異なる新たな建物のジャンルが生まれるかもしれないと思うのです。こうした考えを長谷川豪さんとともに深めていき、私たちなりの考えを1つの形にして見せたいと思っています。


住宅を“所有する”という発想も変わっていくと考えますか?

かつて住宅は所有するものでした。しかし家主がそこに暮らしていないところに住むこと、つまり賃貸住宅に住むことは今やごく当たり前です。これからは何かを所有することにはこだわらず、必要なときにすぐにアクセスできることが求められる時代になると思います。

たとえを挙げると、音楽。従来、音楽を楽しむためにはレコード、CDなど物理的に所有する必要がありました。今は所有しなくても、Spotifyのように欲しいときにインターネット経由で音楽をシェアする、音楽へのアクセスを便利にしてくれるサービスのほうが求められる時代です。

暮らす場所に関しても同様で、所有しなくても、必要なときに暮らす場所にアクセスできるサービスが求められるようになると考えます。これを踏まえて、最初からシェアすることを前提に住宅を建てるとしたら、どのような形になるだろうか、と考えていきたいのです。


住宅=ハウスと家=ホームの違いをどのように捉えていますか?

ハウスは物理的な空間で、ホームは心持ちの問題であり、居場所です。ハウスは1つしかなくても、ホームは世界中に見つけることができます。Airbnbでは、世界中のハウスに泊まって、自分のホームを見つけることができます。


▲ 香港(写真上)、ニューヨーク・ソーホーなど、部屋ごとに異なる世界の街の住まいをイメージしたAirbnb本社オフィスのインテリア


ご自身もAirbnbを利用なさるのですか?

仕事でも私的な旅行でも、これまで150回ほどAirbnbに登録されている空間に泊まってきました。今回の来日もAirbnbに登録された住まいに泊まっています。

Airbnbのチーフ・プロダクト・オフィサーとして、私はAirbnbのサービスを使う人が体験する一連の旅を自らも体験する必要があります。Airbnbのウェブサイトにアクセスし、行きたい街の住まいを検索する。旅はここから始まっています。そして、滞在先で迎えてくれる人と出会い、帰国して、滞在した街、滞在先の感想をウェブサイトに書き込むことでより多くの人とシェアする。旅はここまで続いています。

こうした一連の旅の体験をどのように楽しんでもらうか。旅人を受け入れる方が空港まで出迎えに行くのはどうでしょう、あるいは香りで旅人を迎えるのはどうでしょう?といったことを提案することがあります。こうした体験をデザインしていくのが私の仕事です。


Airbnbの今後の展望について教えてください。

旅の宿を見つけるためのサービスに止まることなく、旅そのものをデザインしてあげたい。街に降り立った瞬間、空港でどのように過ごすか、空港から目的地までをどのように移動するか、そして目的地でどんな発見をするか、こうしたことすべてが旅であり、思い出として残るものです。旅の思い出をデザインしていきたいのです。宿はその一部でしかありません。

▲ Airbnbが考える旅