今回、取り上げることにしたのは、プロダクトやサービスではなく、『デザインディレクションブック』(マイナビ出版、¥2,739)という名の新刊書籍である。その理由は、規模の大小を問わず、今の日本企業が知っておくべきことが、的確にまとめられているという点に尽きる。
昨今、製品やサービス開発におけるデザインの重要性はますます高まっているが、それだけにデザインというものがある種の聖域となり、一部の専門家のみが扱うことのできる存在として扱われる傾向が見られる。しかし、現実のデザインプロセスでは、インハウスであれ外注であれ、その製品やサービスを企画した部門の担当者が、発注から管理・監督、評価、決定といった業務を連続的にこなしていくことが求められる。
アップルの元CDO (チーフデザインオフィサー)だったジョナサン・アイブのように、知識も経験も豊富なデザインの実務者がそのような役割を担えれば良いが、大多数の企業ではそうした体制を整えることが難しい。この書籍の著者である橋本陽夫デザイン事務所代表の橋本陽夫氏は、セイコーインスツルで時計設計やウェアラブルPHS端末のリストモの開発を手がけたのち、良品計画の企画デザイン室でのデザインディレクション、伊東屋のクリエイティブディレクター、伊東屋研究所の取締役兼チーフクリエイティブオフィサーを歴任してきた。
その過程で一般企業におけるデザインディレクションの重要性を認識したものの、既存のデザイン関連書籍はデザイナー目線の発想術やデザインワークの基礎知識的なもので占められていて、この分野の適切なガイドブックが存在していないことがわかり、自ら書き下ろすことにしたという。
その内容も、デザインプロセスをコントロールするための手順、要望を正確にデザイナーに伝えるための依頼方法、製品の目的に合致する最適なデザインを選択するための評価基準という3つのポイントが、ビジネスパーソン向けの平易な文章で綴られており、担当者だけでなく企業の社長以下役員も目を通しておくべき1冊といってよい。
もちろん、依頼を受けるデザイナーにとっても、社内の企画部門やクライアント企業の担当者とのコミュニケーションを円滑に進めるうえで、一読することをお勧めしたい良書である。