ウイルス禍の影響によって飲食店のメニューのデジタル化が進み、特にチェーン店では、ほとんどの店がタッチ端末から注文するシステムを取り入れた。それ以外にも、役所や銀行などの公共の場でタッチスクリーンを操作する機会は多い。しかし、そのことが視覚障がい者のアクセシビリティを低下させている。
例えば、紙のメニューでは、個々のアイテムに発泡インクによる印刷で点字の突起を設けたり、点字シールを貼って、アクセシビリティを改善することが可能だ。しかし、表示内容が動的に変化するタッチ端末では、そうした対応をとることができない。
この社会課題の解決に取り組んだ米国メリーランド大学のスモール・アーキファクツ・ラボは、「タッチアライ」という小型デバイスによるアクセシビリティの向上を提案している。
ポピュラーなマイコンボードであるラズベリーパイ・ゼロを搭載したタッチアライは、底面の3つの吸盤によってタッチスクリーンに吸着し、本体の向きの変更用と、タッチアームの伸縮用のふたつのモーターを内蔵。さらに、タッチスクリーン上の位置を特定するために、斜め下に向けて45度の角度で取り付けられたカメラと、アームの繰り出しの長さを把握するエンコーダーメカニズム用の赤外線センサーを備えている。
タッチスクリーンの適当な位置に吸着したタッチアライは、まず、表示されているボタンなどのイメージを30度ずつ角度を変えて撮影し、結果を専用のサーバーに送信。イメージデータは、あらかじめデータベースに登録済みの情報と照合され、メニュー内容やボタン位置などが特定される。
すると、ユーザーのスマートフォンの専用アプリに必要な情報が送られ、OSのアクセシビリティ機能との連動で、手元のスクリーン上での指の動きに合わせて、メニューの個々のアイテムの読み上げなどが可能となる。それを受けて、ユーザーがアイテムの選択を行うと、タッチアライがタッチ端末上の対応するボタンにアームを伸ばしてタッチし、処理が完了する。
理想を言えば、各タッチ端末のサーバーとスマートフォンのアプリが直接連携できると、タッチアライを介さずにアイテム選択が可能となるが、現実にはメーカー側の思惑やセキュリティ上の懸念などから難しい面がある。これに対して、タッチアライでは、新たな端末の導入やメニュー変更があっても、ボランティアなどが協力して実物のタッチ端末のメニューのアイテム名やボタン位置を登録することで、メーカーからの情報提供がなくてもアクセシビリティを向上させることが可能だ。
実際の視覚障がい者によるテストでも、スマートフォンの操作に慣れていれば、タッチアライも簡単、快適に使えるとの評価を得ており、既存のタッチ端末をアクセシブルにするためのひとつの方向性を示していると言えるだろう。