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2023.05.23 16:00
2023年3月18日「コクヨデザインアワード2023」の最終審査が行われた。今年度は国内外から1,023点(国内515点、海外508点)の応募があり、一次審査を通過した10点のなかから、王尾仁思(おうび・ひとし)による作品「Sahara」がグランプリに選ばれた。
今回で20回目を迎えた同アワード。パンデミックを経て、3年ぶりにすべてのファイナリストが会場に集まり、プレゼンテーションと質疑応答が行われた。今年のテーマ「embrace」には「包容する、抱きかかえる」といった意味がある。とりわけ欧米では、さまざまな差別や格差、多様性を「寛容に受けとめる」といった場面でも使われる。日本ではあまり馴染みのない言葉だが、そこにはデザインのアワードとして、新しい価値観を発信し人間だけではなく地球環境も含めて大きな課題に取り組むというメッセージが込められている。
審査発表と授賞式の後に行われたトークイベントでは、6名の審査員からテーマ「embrace」やファイナリストの作品についてさまざまな感想が寄せられた。川村真司(Whatever/チーフクリエイティブオフィサー)は「さまざまな包容力や受けとめる力をポジティブな切り口で見せてもらった」と語る。デザイナーの田村奈穂も「日常の小さな変化や心の動きに着目していくという、コクヨデザインアワードならではの『embrace』のかたちができたのではないか」と感想を述べた。
グランプリを受賞した「Sahara」は「のびのびとした絵を描くためには、のびのびとした道具が必要なのでは?」という考えから砂漠に着想を得た起伏状型のパレット。
王尾は「Saharaは頭のなかで完成したイメージに近づけるためではなく、手を動かしながら発想を広げていくための道具です。パレットを広大な砂漠に見立てるアイデアは、サン・テグジュペリの『星の王子さま』から着想を得ました」と作品の背景にある詩的な世界観を説明した。
審査員も実際にSaharaを使いながら、色同士が混ざって思いがけない色が生まれる楽しさを体感し「アイデア、プロトタイプともにレベルが高い」「詩的なストーリー性があり、使ってみたいと思わせる」「世界の彩られ方が変わる。ポジティブな未来を予感させる」などの高評価が集まった。王尾は受賞に際して「デザイン経験が浅くてもグランプリを受賞できたことがうれしい。これからも健やかにものづくりをしていきたい」と笑顔を見せた。
優秀賞は吉田峻晟(よしだ・しゅんせい)の「落ち葉を模した色鉛筆」とGuo Chenkai(かく・しんがい)の「EMBRACE NOTE」の2作品。「落ち葉を模した色鉛筆」は、文字どおり落ち葉の形の画材であり、ささやかな日常に向けられた新鮮なまなざしや視覚的な美しさが評価された。一方「EMBRACE NOTE」は、ページの罫線がグラデーショナルに消えながら白無地に変化していくのが特徴。使い手のロジカルな思考が直感的な感受性とゆるやかに融合するような「新しい書き方」を提案するものである。
視聴者の投票によって決まるオーディエンス賞には、インド在住のQuolt Design (Aditya Dilip Kulkarni, Rohit Bisht, Vishnu Raj Azhikodan)による包装デザイン「Know more」が選ばれた。絶滅危惧種や環境破壊といった地球規模の問題の意識を高めるねらいがあり、包装を解く過程で生き物を群れから引き離すギミックでその種の危機的な状況をユーザーに伝えている。
優秀賞は、例年は3作品が選ばれるが今回は審議の結果「3作品目の該当はなし」となった。受賞には至らなかったものの、性別を超えて化粧を身近なものにする岩佐真吾と田中敦による「文具な化粧品」やユルラカ(八木薫郎・深沢夏菜)の海洋プラスチックゴミを顔料にした「海洋ゴミのクレヨン」など「embrace」を具体化したとして高く評価された作品も見られた。
コクヨ社長の黒田英邦は「無事に20回目を終えることができて今はホッとしています。この20年、メーカーとして同アワードを主催しながら世の中にとってデザインがどう役に立つのかを試行錯誤してきました。近年は海外からの応募が増え、デザインの領域も広がってきています。21回目以降もアワードを通じて、デザインの力で世界をよりよくするための取り組みを続けていきます」と最後に挨拶し、コクヨデザインアワード2023を締めくくった。