ケルン応用芸術美術館で開催中の
「システムデザイン 日常に見る100年のカオス」展

私たちの暮らしの多くは目に見える、見えないは別にして、システムによって成り立っている。交通網に始まり、カーシェアリングの仕組み、パソコンやスマートフォンのOS、システムキッチン、紙の規格にいたるまで、それぞれの枠組みのなかで複数の要素が相互に関連しながら全体としてまとまり、はじめて機能している。社会のなかで移動、通信、モノの生産など、ある機能を実現するために、複数の要素を組み立てること。

▲ Set side tables “B9,” Marcel Breuer, 1925,
  Gebrüder Thonet ©Thonet GmbH

▲ Toy bricks “Lego,” Godtfred Kirk Christiansen, 1958
  ©MAKK, Photo by Jonas Schneider, Leon Hofacker


ドイツ・ケルンの応用芸術美術館で1月20日から6月7日まで開催中の「システムデザイン 日常に見る100年のカオス」展では、それをシステムのデザインと定義する。そのうえで、あるシステムが長きにわたって社会で使われるためには、機能の有用性だけでなく、使いやすさも大切だという。展覧会は、過去から現代にいたる90人のデザイナーが生んだ約150点のアイテムを通して、システムデザインの優位点だけでなく、負の部分にも触れる内容だ。

システムづくりの第一歩は、シリーズ化すること。1つの椅子ができたら、同一デザインでサイズ展開をすることは生産性も効率もいい。1925年に誕生したマルセル・ブロイヤーのスチールパイプ家具は、椅子からスツール、サイドテーブル、デスク、シェルフにまで応用されている。

▲ Shelf and desk “Eames Storage Unit,” Ray and Charles Eames, 1949,
  Herman Miller Furniture Company ©MAKK
  Photo by Sascha Fuis Photographie Cologne

▲ Shelfing system “606” Dieter Rams, 1959/60, Wiese-Vitsoe
  ©MAKK, Photo by Jonas Schneider, Gabriel Richter


次のステップには、関連するもの同士をつなぎ、まとめる組織化がある。そう聞いて誰もが思い浮かべるのが、USMのハラーシステムユニットではないだろうか。モジュールを組み合わせることでシェルフからテーブル、収納家具まで、幅広い用途への展開を可能にした。

木造建築構造もシステムデザインの1つだ。部材を接合するために、ぴたりとはまるホゾによって互いを支え合い、各々の部材を組み合わせることで、はじめて全体として機能する。これはデジタルが登場する以前から変わらない、アナログのシステムと言えるだろう。

▲ Tableware for large-scale kitchens “TC100,” Nick Roericht,
  1959, Rosenthal ©HfG-Archiv Ulm

▲ Children’s chairs „seggiolino 4999,” Marco Zanuso, Richard Sapper,
  1961, Kartell ©MAKK, Photo by Jonas Schneider, Gabriel Richter


このようにシステムは生産性や生産効率を向上させることができる。同時に、組織化されたときは、他に対して閉鎖的になるとも言える。

例えば、iPhoneと他のスマートフォンでは同じコンテンツが利用できなかったり、同じiPhoneでも後継機では充電ケーブルが流用できなかったり。パソコンに他のデバイスを接続すると、デスク周りがケーブルだらけになるといったことは多くの人が感じていることと思う。

「暮らしを便利にするためにシステムが増えれば増えるだけ、ほかのシステムとは相容れないものが増え、社会はカオスになっていく気がする」と展覧会のキュレーター、レネ・スピッツ氏は指摘する。

▲ Stacking service “La Boule,” Helen von Boch, Federigo Fabbrini,
  1971, Villeroy & Boch ©MAKK, Photo by Jonas Schneider, Gabriel Richter

▲ Irrigation system, Dieter Raffler, Franco Clivio, 1968, Gardena
  ©MAKK, Photo by Jonas Schneider, Gabriel Richter


システムがクローズドになりがちななか、建築図面をクラウド上にアップして自由に使っていいというオープンシステムもある。展示には含まれていないが、日本の鉄道は企業間を超えて乗り入れることで、人々の利便性を図っており、これもオープンなシステムの好例だろう。

展示は、世界のスタンダードとなっているヴィツゥのユニバーサルシェルビングユニットやローゼンタールのテーブルウェアセットなど、合理性、効率を追い求めた結果誕生したデザインをはじめ、19のテーブルウェアを入れ子構造にして収納できるビレロイ&ボッホの独創的なピクニックセットといった、遊び心あふれるアイテムも紹介している。(文/長谷川香苗)

▲ Switch and socket system “System 80,” Wolfgang Dyroff, 1984,
  VEB Elektroinstallation Oberlind (German Democratic Republic – GDR)
  ©Die Neue Sammlung – The International Design Museum Munich

▲ Shelfing system “Ellens Brackets,” Ali Tayar, 1993,
  parallel design partners ltd. ©Ali Tayar