vol.2
「デザインスポット紹介」

シンガポールのデザイン事情をレポートする2回目は、デザインシンガポール・カウンシルの拠点でもあるナショナル・デザイン・センターをはじめアートギャラリーやデザインショップ、デザイン書を扱うブックショップに加え、訪れる人のためのレストランやホテルもピックアップする。

文/大島さや


●デザイン+アートギャラリー

ナショナル・デザイン・センター(National Design Centre)
デザイン学生の集まるブギスエリアに2013年竣工、翌2014年3月にオープン。デザインシンガポール・カウンシルやデザイン事務所のオフィスのほか、レクチャーホール、エキシビションスペース、リテールショップなどを構え、文字通りシンガポールのデザインハブとして機能する。100年以上にわたり学校と教会として使用されてきた建物を改装したのは、2006年に「プレジデント・デザイン・アワード」を受賞したシンガポール人建築家チャン・スーキアン率いるSCDAアーキテクツ。バルコニーの一部にクリスチャンのモチーフを残すなど、今も教会の面影を伝えている。メッシュ素材で大きく仕切られた建物内部は、訪れた人の視界や自然光を遮ることなく、公共スペースとオフィススペースとを隔てている。nendoの佐藤オオキがキュレーションし、日本のデザインプロダクト120点を展示した「Hidden」をはじめ、さまざまな展覧会が催されている。

Courtesy of SCDA


ギルマン・バラックス(Gillman Barracks)
元英国軍の宿舎だった建物を改装し、2012年にギャラリーコンプレックスとしてオープン。アジアの現代美術のハブとなるべく、シンガポールをはじめ中国、香港、インドネシアなどアジア全域の有力ギャラリーが名を連ねている。オオタファインアーツ、小山登美夫ギャラリーなど日本のギャラリーも人気が高い。昨年9月には2周年記念イベントとして、全17ギャラリーに加え、さまざまなアートインスタレーションやインタラクティブアートが繰り広げられ、無料で楽しめるローカルアーティストによるライブステージなどが開かれた。


アートスペース@ヘルトランス(Artspace@Helutrans)
港近くの倉庫街にあるギャラリーコンプレックス。美術品の輸送保管会社が経営するコンパクトながら本格的なアート施設だ。5つあるギャラリーのなかでも2011年にオープンしたニューヨークを拠点とするイッカン・アート・ギャラリーは、ストリートアートからメディアアートまで幅広い現代アートの展示で注目されている。猪子寿之率いるチームラボの作品は、アートステージやシンガポールビエンナーレなどで大きな話題を呼んだ。


カルト(Kult)
高級住宅地に囲まれた閑静な丘の上、エミリーヒルにあるアートギャラリー。元ファブリカの英国人アーティストMojokoことスティーブ・ローラーがキュレーションをする。シンガポールを拠点とする若手アーティストや世界各地のストリートアーティストの作品を多く取り扱う。シルクスクリーンやデジタルプリントなど若い世代にも手の届きやすい価格の作品を揃え、オリジナルグッズも展開。同ギャラリーが発行するフリーマガジン『カルト・マガジン』では、毎回テーマに沿ってアーティストの作品を紹介する。


●デザインショップ

ファウンドリ・ストア(Foundry Store)
シンガポールのデザイン会社ファウンドリが、自社デザインの家具と合わせてフィンランドや英国など世界中からセレクトしたインテリアアイテムを扱う。2003年にショップオープンをしたフェリックス・ローは、2009年のAPEC首脳会議のために椅子をデザインした経歴を持つ。彼のインテリアブランド名でもある「ファウンドリ」は、無垢の木材が持つ豊かな表情と有機的なラインが特徴の家具シリーズだ。


ストレンジレッツ(Strangelets)
2008年にオープンしたティオンバルエリアにあるセレクトショップ。大量生産品に嫌気がさしたデザイナー、建築家、銀行員の3人が、世界中のさまざまな都市で見つけたアイテムを販売する。凸版印刷でつくったグリーティングカード、木製の子供用玩具、カラフルな食器など、シンガポールでは見つけにくい繊細な手作業の感じられる製品を取り揃えている。ローカルデザイナーのプロダクトと海外のブランドが調和したショップだ。


スーパーママ(SUPERMAMA)
シンガポールミュージアムの近くにあるショップで、アーティスト・レジデンス・スタジオとしても機能する。ローカルアーティストの作品を多く揃え、なかでも日本の有田焼職人とシンガポールデザイナーとの協働によって製作された「シンガポール・アイコン」は、国民の80%以上が暮らすこの地を象徴する公共住宅や、開発の続く街なかでよく目にするクレーンを折り紙の鶴に見立てたデザインが高く評価され、「プレジデント・デザイン・アワード」を受賞している。


●ブックショップ

バシル・グラフィック・ブックス(Basheer Graphic Books)
現在活躍するシンガポールのクリエイターたちを育てたと言っても過言ではない、創業25年のアート関連書籍の専門店。昔から教科書や参考書などの専門書店が軒を連ねるブラス・バサー・コンプレックス(Bras Basah Complex)に本店があるほか、現在はマレーシアに3店舗、香港、バンコクにそれぞれ1店舗を有している。建築、グラフィックデザイン、ファッション関連の書籍のほか、世界各地のファッション誌、インディペンデント誌などを多く取り揃える。海外のブックフェアなどで買い付けた最新作、客のリクエストから取り寄せられたタイトルなど、独自のセンスとコミュニケーション力で収集している。


ブックス・アクチュアリー(Books Actually)
2005年にケニーとキャレンのふたりがスタートさせた小さなブックストア。取り扱いは文学中心だが、大型書店やネットショップでは見かけないような、デザイン性の高い装幀のものを多く取り揃えている。また地元の作家やアーティストを起用し、凝った装幀の詩集やイラストブックなども出版する。ブックス・アクチュアリーが出店したクラブストリートは、その後ユニークなカフェやバー、ライフスタイルショップが次々と店を構え、シンガポールのインディーズカルチャーの火付け役としても有名だ。現在は、街の中心部から少し離れたティオンバルに移転し、店の一部ではアンティーク雑貨も販売する。


●レストラン+ホテル

キロ(Kilo)
カランリバーを2階から見下ろすことのできるレストラン。周辺にほとんど建物がなく、緑に囲まれているため、夜には店内に心地よい風が流れ込む。和食にインスピレーションを受けたイタリアン料理が人気で、予約せずに席を取ることはほぼ不可能。タパスのように数人でたくさんのお皿を囲む料理の数々は、盛りつけのセンスもいい。オーチャードロードのショッピングモール、オーチャードセントラル内にある「PACT」は、Kiloとヘアサロンとアパレルブランドが融合したコラボレーションスペース。ラテン料理のブランチメニューが楽しめる。


ポーレン(Pollen)
「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」の温室、フラワードーム内につくられたレストラン。ミシュランの星を持つ英国人シェフ、ジェイソン・アサートンがプロデュースする地中海料理が楽しめる。ガラスのドームを引き立てる落ち着きのある空間は、シンガポール在住のコロンビア人建築家、アントニオ・エラソがデザインを手がけた。ダイニングエリアを囲うようにさまざまな植物が植えられ、料理に使う一部のハーブなども店内で育てている。


カム・レン・ホテル(Kam Leng Hotel)
1927年に建設されたと言われ、長年オーナー不明の廃墟だったホテルが、2012年に建築家Tiah Nan Chyuanによる改築工事を経て再オープンした。建設当時のデザインを生かしつつ、色とりどりの壁や家具を配している。古くからある照明器具店、金物屋などが立ち並ぶジャラン・べサールは、新たにインテリアショップなどもオープンしており、クリエイティブなエリアとして成長しつつある。隣接するレストラン「Suprette」ではカクテルが人気。観光客で溢れるエリアと異なり、周辺の雰囲気に溶け込みながら、今と昔のシンガポールを感じられるホテルだ。


ニュー・マジェスティック・ホテル(New Majestic Hotel)
「ショップハウス」とは、1900~1940年に建築された間口が狭く奥行きの深い建築様式。文字通り1階が店舗、2階が住宅で、シンガポールの保存建築の大半がこれを占めている。そのショップハウスが連なるチャイナタウンに建つホテルは、街並みに調和するガラスのファサードで、数々のデザイン賞を受賞。手がけたのは、シンガポールのデザインスタジオであるミニストリー・オブ・デザインのコリン・シア。かつて愛人が多く住んでいたという噂のあるマンションを、すべてコンセプトの異なる30の客室に仕上げた。屋外プールの底に設けた窓から、地下にあるレストランの様子が眺められるという仕掛けもある。



●本ブログで紹介した施設の多くは、シンガポール政府観光局のサイトに詳細が掲載されています。

●本シリーズは「シンガポールデザインレポート」からご覧いただけます。