意思決定で“分析麻痺”に陥らないための8つの原則
―本当に効果的な会議の進め方

この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BXクリエーティブセンター、岡田憲明氏の監修でお届けします。

アマゾン、アップル、ディズニーといった企業は、会議をどのように活用し、変革を推進するための意思決定を加速化しているのでしょうか?

私は以前、組織内の意思決定プロセスを改善したいというクライアントと仕事をしたことがあります。そのプロジェクトが予定の半分くらいまで進んだ頃、クライアントが怒りをあらわにしてこう言いました。「あなたに依頼したのは意思決定プロセスのデザインであって、会議のデザインではありません!」。それに対して、私は次のように尋ねました。「では、意思決定が行われるのはどこですか?」。彼はきまり悪そうにこう答えたのです。「……会議です」。

真の意思決定が“どの会議”で行われているかを把握する

“会議”といっても、いろいろあります。組織によっては、意思決定が“会議の前の会議”で行われたりします。また別の組織では、“会議の後の会議”で意思決定が行われます。あるいは、休憩室で、ゴルフコースで、教会の懇親会で、サッカーの試合を観戦しながら、意思決定が行われることもあるのです。

意思決定のプロセスで“分析麻痺”(データなどの分析に時間をかけて行動に移せない状態)に陥らないようにするには、あなたの組織で意思決定が行われているのはどのような“会議”かを把握し、より効果的に意思決定が行えるよう会議をデザインしていくことが必要です。

変革に向けた行動の中で最も難しいのが意思決定でしょう。しかし、「次の大規模投資をどの分野で行うべきか」「どの特性に重点を置くべきか」など、意思決定の中身は違っても、意思決定プロセスをきちんとデザインしておかなければ、混乱(当社では「スワール=渦巻」と呼んでいます)、無駄、不満の原因となるばかりでなく、競争力の欠如にもつながっていきます。

意思決定のために委員会を立ち上げることはよく行われるアプローチの1つです。しかし、明確な目的を設定し、説明責任を果たすことができなければ、委員会に意思決定を委ねた組織のためにならないばかりか、変革の推進が阻害される可能性もあります。

このような課題に対処するためには、委員会を立ち上げる際、サーバントリーダーシップ・アプローチ(委員会は会社に奉仕する立場であり、その逆ではないという考え方)を基盤として、次に述べる8つの原則に従って委員会をデザインすることをお勧めします。

意思決定のための委員会をスムーズに動かす「8つの原則」

原則1 拙速に判断を下さない:
センスメイキング(意味づけ・納得)とディシジョンメイキング(意思決定)は分けて考えましょう。言い換えると、デザイン思考における“ダイバージェンス(発散)”と“コンバージェンス(収束)”を実践するということです。

ある研究から、アイデアの質はアイデアの量に直接関係することがわかっています。もし優れたアイデアが1個必要なら、稚拙なアイデアが10個必要になります。優れたアイデアが10個欲しいのであれば、100個の稚拙なアイデアが必要なのです。

稚拙なアイデアをためらわずに提案できるようになるには、そのための訓練が必要です。frogでは、共同ワークセッション、リサーチ、ユーザーテストなど、この原則に基づいて迅速に最適解に到達できるよう、さまざまな活動をデザインして提供しています。

原則2 集合知を目指す:
集団で考えたアイデアは、個人で考えたアイデアよりも必ず良いものになります。

2人以上の人が集まれば、1つの集団が成立します。そして、その集団には、構成メンバーのパーソナリティーと切り離すことのできない集団としてのパーソナリティーが備わります。この原則を受け入れ、集団の中で生み出されたアイデアはすべて集合知であることを理解しましょう。

この原則に従うと、個人として「集団の中で最も賢い人」になろうとするのではなく、集団として課題を解決し、何かを創造していこうという行動の変化につながります。これは、意思決定を行う組織にも、その他のさまざまなチームにも適用できる原則です。重要なのは「私のアイデア」が採用されることではなく、「集団として最適な考え方」ができるようになることです。

原則3 業務に近い人たちに任せる:
業務に最も密接に関わる人に意思決定をしてもらいましょう。

これは、組織として実行するのが最も難しいことの1つかもしれません。役員クラスの意思決定者が1人(または複数人で)業務に関わってきて、不必要な業務のやり直しや確認作業を指示してくる。または、迅速に業務を進めていく実質的あるいは心情的な動機を持たず、あいまいに物事を進めていくことは珍しくありません。

そうならないよう、会社を巻き込み、話し合いに参加させ、開発チームとともに学び、選択の方向性について合意を取り付けましょう。しかし、最終的な意思決定はその業務に最も密接に関わる人たちに任せるべきです。

原則4 道を譲る:
スポンサーは障害を排除する役割を担います。

スポンサーの主な役割は、意思決定の障害になるものを排除することであり、承認のサイクルを作り出すことではありません。スポンサーは意思決定に必要な要件や環境、制約などをうまく調整し、課題解決の加速化に向けて創造的なやり方で協力すべきです。

原則5 予算について話し合う:
意思決定プロセスにおけるチェックポイントを事前に決めておきましょう。

会社による体系的な検討と承認が必要なのは、あらかじめ決められた投資のタイミングに関することだけです。そのほかに、情報共有や方向性を決定するための検討があります。予算については、例えば「この事業は1,000万ドルの利益をもたらす可能性があります。これに対して我々は20%の自信を持っていますが、10万ドル(100分のXドル)の投資を行うことで、20%を50%まで上げることができます」といった提案をします。

原則6 議論の余地を残す:
委員会方式での意思決定には時間とスペースが必要です。

上記3~5と併せて考えるべき原則が、主要な意思決定は段階的に行うべきであるというものです。例えば、「最適な解決策に対する予算の検討を行う。どれが最適な解決策かは、業務に直接携わる人たちに決めてもらう」という具合です。

原則7 反対意見を述べ、意見に責任を持つ:
聖書にも書かれているように、“イエス”は“イエス”、“ノー”は“ノー”という意味で使うべきです。

上層部の誰かが陰でこそこそ意見を言う、あるいは決定した案を100%支持していたわけではないというサインを発することで、意図的ではないにせよ、変革を阻害している場合があります。会議の中で「本当にそれでいいか?」と覚悟を確認したのであれば、極めて重要なデータが新たに出てこない限り、話を戻したり、決定したことを覆したりしてはいけません。

原則8 「プロセス」よりも「プログレス」を優先する:
物事前進させていくことが、何よりも重要です。

最後の原則は、1~7の原則や人の行動モデルを全部考慮して会議を進めていったとしても、最終的に最も価値があるのは、「プロセス」よりも「プログレス」。すなわち物事が前進していることです。私たちに変革していく力があるということを周囲の人に知ってもらうには、実際に成果を上げていることを見せるのが最も効果的なのです。

8つの原則を応用したアマゾンの「6ページのメモ」

これら8つの原則を実際に応用している例が、有名なアマゾンの「6ページのメモ」です。これがなぜ確実で効果的なのでしょうか。それは「6ページのメモ」には、8つの原則がすっきりと簡潔に、誰にでも実践できる形で反映されているからです。

「6ページのメモ」方式で素晴らしいのが、会議参加者全員が30分間、黙って資料を読むという部分です。

どうしてだと思いますか?直前に資料を配ることの弊害は皆さんもよくご存じでしょう。翌朝8時に始まる会議の資料として、200枚ものスライドが夜11時に送られてきた経験はありませんか? それは決して生産的な意思決定につながることはありません。

事前配布する資料の量に関係なく、会議に参加する人は3つのタイプにわかれます。

a. 資料を読み込んで参加し、会議中はこまめにメモを取り、次のステップについてきちんと意見を持っている人
b. 資料を読んでこなかった、あるいはざっと目を通してきただけだと正直に言う人
c. 資料を読んでいないにもかかわらず、読んできたとウソをつく人

つまり、「今状況を理解しようとしている(ダイバージェンス=発散する)人」と、「すでに理解している人」が同じ場にいるということです。その状況でグループとして意思決定に向けた議論を進めていく(コンバージェンス=収束する)と、参加者は“スワール(混乱状態)”に陥ることになります。

会議の中で「資料を読む工程」を議事の1つとして設定することで、全員が資料を読む時間を持つことができます。また拙速な判断を避けることができ、きちんと準備をして会議に臨んでいる、責任ある大人は誰か、といった推測をする必要がなくなります。

また、全員に資料を読んでもらうために会議の1週間前までに資料を提出するという時間的な制約も必要なくなり、1週間の間に一部の情報が古くなってしまっているという事態も避けることができるのです。

実際の意思決定に生かすには?

この8つの原則に従うことで、会議室に集まって集合知を生み出し、会議を本質的な議論の場とすることができます。会議の中で反対意見を述べ、意見に責任を持ち、邪魔をしないよう道を譲り、最も密接に業務に関わる人が決められた予算について提案を行えれば、プロセスよりも前進を優先することに成功したと言っていいでしょう。