特集
新しいおいしさ。
命を支えることから、楽しみや喜びへ。あるいは、食材の採取から、その加工や調理方法、食べ方まで。文明の発達に応じて人は何を食べ、どのように嗜好を変えてきたのだろう?
人のさまざまな感覚を揺り動かす味覚やおいしさへの関心は、単に食欲を満たすだけでなく、固有の食文化の形成や調理技法の進化などにも大きな影響をもたらしてきた。人はおいしいという感情をもってして、食べるという行為を単なる栄養源の摂取から、創造性を享受するものに昇華させてきたと言ってもいい。
こうしたおいしさの追求は今、科学やテクノロジーの視点を取り込んで新たな段階を迎えようとしている。味覚をデジタル化し、測定されたデータの組み合わせから新たな味をつくり出そうという試みもあれば、これまで人が担ってきた料理の創造を人工知能などに代替させようとする動きも顕著だ。さらに、世界の人口が90億人を突破し、深刻な食料不足が懸念される2050年に向け、持続的な食料供給の対応も急がれる。
そのとき、人類の生存と食文化という快楽のあいだで進化を遂げてきたおいしさに対する嗜好や感情はどこへ向かうのか? 多様な食環境にあって生命や社会の活力にもつながるおいしさの来し方とこれからの行方を探る。
Vol.189 | 2017年09月01日 発売 |
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定価: | 1,800円 |
表紙: | 表紙写真 青木倫紀 |
016
生江史伸×後藤裕一×森枝 幹
気鋭のシェフとパティシエが考える新しい「おいしさ」。
「おいしさ」をめぐる新たな体験や可能性を考えるべく、東京に店を構える3人の食のクリエイターが集結した。ミシュラン2ツ星のフレンチシェフ・生江史伸(左)、モーニングからディナーまでカバーするカフェ・レストランのパティシエ・後藤裕一(中央)、世界各国の食材をコースで提供するカジュアルレストランのシェフ・森枝 幹。海外での鍛錬を経て日々さまざまな食材や人に接する彼らは、どんな未来を見据えているのだろうか。鼎談から発想した「未来のおいしさ」のプロトタイプとともに、彼らのビジョンを紹介する。
028
おいしさを習慣化する完全栄養食「ベースパスタ」とは?
2017年2月、あるスタートアップ企業が販売を開始した完全栄養食パスタが話題をさらった。厚生労働省が定める1食に必要な栄養素31種が練り込まれた「ベースパスタ」である。開発したのはIT企業出身の橋本 舜。「健康をおいしく当たり前に」というスローガンを掲げ、ベースフードという会社を興し食品業界に参入した橋本に、未来の日常食にかける意気込みを聞いた。
032
ビヨンド・ミート― 食糧生産のモードを切り替えるフードテックベンチャー
植物を利用して人工肉をつくるのは、単純な代替食品の開発と思われがちだ。だがそこには、植物から動物、そして人間へという従来の植物連鎖を捉え直し、食糧生産のモード(枠組み)も変える可能性が秘められている。
034
味覚センサーが解き明かす“ 味の秘密”
複雑さと主観性のベールに包まれてきた味覚の世界。味覚を構成する“基本五味”を検出し、AIによる定量化に成功した日本の大学発フードテックベンチャーが注目を集めている。味の特性や食品同士の相性を可視化することで、何が起きるのか。“味博士”ことアイシー代表取締役社長の鈴木隆一に、未来への展望を聞いた。
038
電気で味覚をコントロールするエレクトリックテイスト
もう少し塩味を濃くしたい。もしくは醤油の味を薄めたい。従来の調味料に頼らず、食品を介し、舌に電気の刺激を与えることで味覚をコントロールするという研究を進めている科学者がいる。デジタルフードエンジニアとしても活動する中村裕美だ。電気味覚とも言われるエレクトリックテイストが提示する新たな食の味わいとは?
040
形状変化を自在に操れる新時代パスタの可能性
3Dプリンターを活用した食品加工など、デジタル化の波は食の領域にも急速な広がりを見せている。MITメディアラボの研究者たちが挑むのは、パスタの形状変化を自在にコントロールするプログラム開発だ。新たな味覚体験を含め、パスタの可能性を拡張する取り組みが示唆するものとは?
044
食の記憶を豊かにする川島流・分解再構築
料理の常識を覆した「エル・ブジ」「ムガリッツ」に代表される現代スペイン料理をいち早く日本で展開し、独自の世界観で高い評価を得てきた「アコルドゥ」。昨年末、奈良・東大寺の旧境内跡地に店舗を移し再オープンした。オーナーシェフの川島 宙は、人の記憶に由来する主観に訴える料理を追求する。五感を刺激し感動をもたらす彼の料理は、どのように生まれ、どうつくられているのか。音楽を起点に常に新しい試みを展開するヤマハデザイン研究所 所長の川田 学と川島が、創造性や発想のプロセスについて語り合った。
050
元薬草園から発信する日本初のボタニカル・ブランデーとは?
千葉県の大多喜町でこれから始まろうとしているボタニカル・ブランデーづくり。元薬草園に生い茂った植物や薬草から生み出される蒸留酒の味わいとは?書店オーナーから蒸留家に転身した江口宏志は今、四季を通じて刻一刻と状況を変える自然と向き合い、この場にふさわしいブランデーの味を模索中だ。
052
新たな発酵段階を迎えたおいしさの未来
「発酵デザイナー」小倉ヒラク インタビュー
世界でも特異な発展を遂げた日本の発酵文化を探究し、新しい食生活のあり方を問う「発酵デザイナー」の小倉ヒラク。日本、そして世界の食文化を醸成してきた微生物の力、最新の発酵ムーブメントと著書「発酵文化人類学」がもたらす豊穣にして多様、かぐわしき食体験の未来とは。
054
科学者とシェフが協業して食の多様性を追求する
デンマークのノルディックフードラボ
ノルディックフードラボは、デンマークの有名レストラン「ノーマ」の創設者レネ・レゼビとクラウス・マイヤーによって2008年に設立された非営利のオープン組織。当初は北欧の食の探求を主な目的としていたが、コペンハーゲン大学フードサイエンス学部に拠点を移した14年からは、料理とサイエンスの双方の視点から、いかにして身近にあるさまざまな食べ物を摂取するかを研究している。
060
科学によって解き明かされたその先に、日本料理の新たなおいしさを探る。
今、日本料理の世界は、大きな転換期を迎えている。科学的手法やデザイン思考を持ち込むことで、伝統的な調理法や素材のエレメンツが解析され、新たな味覚への道筋が見えはじめた。京都を拠点に「日本料理ラボラトリー」という研究会で活動を共にする、料亭「木乃婦きのぶ」三代目主人の髙橋拓児(写真右)と、味の素 イノベーション研究所 主任研究員の川崎寛也が、日本料理における新しいおいしさの可能性について語り合った。
007
高宮慎一 ベンチャーキャピタル流デザイン講
069
LEADERS
山井 太(スノーピーク 代表取締役社長)
074
Sci Tech File
クマムシに問う、生命とは何か? クモ糸が紡ぐ、素材革命の夢
080
INSIGHT
ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーとインテルによる「テンペスト」
086
INSIGHT
柳本浩市コレクションに見るデザインアーカイブの可能性
092
INSIGHT
コモレビパビリオン― 建築教育に生まれた新時代のコラボレーション
098
INSIGHT
シンガポールデザイン界を牽引するジャクソン・タン
104
クリエイターズナビ
坂内 拓、エタブルオブメニーオーダーズ、デミトリ・ベレ、白井 晃、松村宗亮、secca、三澤 遥
110
田川欣哉のBTCトークジャム
ゲスト> 森川 亮(C Channel 代表取締役社長)
117
& DESIGN
太田睦子(アート)、土田貴宏(インテリア)、君島佐和子(フード)、菅野 薫(テクノロジー)
122
書評― 創造へのつながり
御手洗瑞子、鷲尾和彦、塚田有一
125
寺尾 玄 Pop Gap Creative
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