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2022.04.11 15:00
現在の日本では、人口減少と都市部へ人口集中が続いている。その一方で、地方では過疎化が進み、多くの限界集落やその予備軍を抱えるのが現状だ。そこで、デザインユニット DECOの太田琢人が「コモン・ネグレクト・マテリアル(CNM)」という新しいプロジェクトを公開した。
たとえば、市区町村の一部として機能していた建築やモノは持ち主の死により相続されて所有者を変えるが、核家族が主流の社会では、残留物はただの荷物となり、運用しない方が得である空虚な存在になってしまう。
こうした多くの取り残されてきたモノに対して、私たちはいままで見て見ぬふりをしてきたという。太田は、「地方の現実を目の当たりにした時、意図的に光を向けなかった場所を照らすような、能動的に空虚を切断し新たな発想や価値を接ぎ木する活動が必要だと直感した」と語る。
こうして生まれたCNMは、モノが未だ内包するポテンシャルだけに目を向けた、「文脈が後から付いてくるような先回りの実践」である。
活動の拠点としたのは三重県の紀州エリアである九⻤、海山、尾鷲といった街。現在では、地域所得低下や人口流出などにより空き家率は3割にも達するような、空き家や廃屋が多い場所である。
その景観やゴミ・放置物に色濃く反映されているのは、漁業が盛んだった頃の痕跡である。漁港脇の巨大な冷蔵施設跡、乱雑に放置された魚を運ぶためのコンテナボックスや漁師網、元エイの養殖場にある大量の塩ビ管やたも網、漁船置き場に転がるブイや浮きなどは、衰退以前の活気がそのまま固形化したようなものだったそうだ。
太田は、物流と生産の合理化によって物質や価値が平均化する社会の中で、時代に取り残されたモノには、「地域の特性」と「風化によるエイジング」という市場には存在しない魅力的で固有の価値が存在すると考える。
これら持ち主不在で社会から姿を消した特有のモノを「コモン・ネグレクト・マテリアル」と名付け、意識的に活用し地域へドロップすることを試みている。モノが溢れる世界の中で、生産と発展のレガシーに向き合い続け、未来を形作るひとつの方法論であるとしている。