REPORT | ファッション
2022.02.13 21:00
国内有数の温泉地、大分県別府市に毎年1組のアーティストを招聘し、地域性を活かしたアートプロジェクトを展開する個展形式の芸術祭「in BEPPU」。6回目を迎える本年の招聘アーティストは、SOMA DESIGNの廣川玉枝だ。昨12月より披露された廣川の手がける「祭」とは。
「祭」というテーマ
「廣川玉枝 in BEPPU」のテーマは「祭」。疫病や自然災害といった苦しい状況にあるとき、人類はその土地の神々に祈りを捧げ、厄を祓う祭を催してきた。かつての別府においても、鶴見岳の噴火を鎮めたという火男火売神社(ほのおほのめじんじゃ)や、荒れ狂う「地獄」を鎮め鉄輪(かんなわ)を湯治場へと変容させた一遍上人のような、地場に根付いた未来への架け橋が存在する。新型コロナウイルス感染症をはじめ世界中が困難に見舞われている時代に必要なものこそ祭であるというのが、廣川の構想だ。
別府で言われる「地獄」とは、高温多量の湯が湧出する鉄輪エリアにおける温泉の呼称。「海地獄」「血の池地獄」など、独特の色彩や形態をした温泉を周遊する「地獄めぐり」は、別府を代表する景勝地遊覧になっている。地獄という言葉からも、別府に潜む力強い自然環境、人々の畏怖の念が感じとれるが、そこで生み出す新たな祭を廣川は「希望の結晶」と言葉にする。
「万物に癒しを与え続け、死と再生を繰り返し、日々生命の循環を営んでいる自然のエネルギーに感謝を捧げ、あめつちの神々に豊穣を祈る。私たちの祖先が自然を崇拝し、未来永劫と続けてきたこの風習を祭と呼び、人類が芸術を生み出す源となった。祭とは、人々が自然と対峙して育む情熱の象化であり、希望の結晶である」
神事とインスタレーション
別府市内各所には鉄輪温泉街をメイン会場としてインスタレーションが展開。1276年創設、一遍上人によって開かれたと言われる鉄輪温泉街を代表する温泉施設、鉄輪むし湯は、廣川の代表作「Skin Series」でできた魔除け提灯や暖簾で飾られた。廣川のデザインによる地嶽柄装束をまとったスタッフが来訪者を迎える。
また本展では、山から海へ、海から山へと循環する温泉のように、山・町・海へと展開する3つの神事が行われた。
山を舞台にした「追儺式(ついなしき)神事奉納」は、火の精霊「火鬼」による疫病祓いの神楽を奉納するパフォーマンスをおさめた映像作品。天地四方に疫鬼を斬り裂き、天の磐戸を押し披いて、世界の闇に光をもたらすというストーリーで、芸術監督や衣装デザインを廣川が務めるほか、演出・振付・出演としてダンサー/振付家の湯浅永麻が参加した。
町においては、去る12月18日に「地嶽祭(じごくまつり)神事奉納」として、太鼓の音に合わせて地嶽からやってきた来訪神「まれびと」たちによる市内の練り歩きが行われた。火の神「アマキ」、風の神「ウルカ」、竃門の神「ひょっとこ」など、別府を形成する自然エネルギーをイメージして廣川が表現したまれびとたちが闊歩することを通じて、地域そのものが奉納の場としての佇まいを帯びていく。
練り歩きの最後には、鉄輪むし湯にて一同になったまれびとと観衆らがともに地鳴らしを行う。疫鬼を祓い、大地にエネルギーを与え、新春を迎えるための神事は、人々の活気でみなぎるものとなった。振り付けそして「大アマキ」役の出演は、ダンサーである大宮大奨が務めた。
海を舞台にした「火祭(ほのまつり)神事奉納」は、芸術祭の終わりを告げる神事として映像作品として発表された。神聖な火である忌火を熾し、火の精霊「火命(ほのめ)」による疫病祓いの神楽。浄化の力で厄災を焼き尽くし、邪気を飲み込んで大海へと鎮め、常世の海に消え去り、世界を清浄へ導くというストーリーのもと、春の到来を祝福する。
「廣川玉枝 in BEPPU」の様子は公式インスタグラムアカウントにおいてもさまざまに現地の様子が伝えられている。デザイナーによる、地場に根ざした新たな祭の姿を、改めてご覧いただきたい。