モジュラー構造で各種の機能パーツが部分ごとに交換可能という携帯電話のコンセプトは、過去にもいくつか提案されてきた記憶がある。そして、そのどれもが現実には至らずに消えていった。
しかし、このところ、再び2つのプロジェクトが注目を集めている。1つは、フォンブロックスで、もう1つはモトローラのアラだ。
前者のフォンブロックスは、オランダのデザイナーたちが立ち上げたもので、身の回りの情報機器が計画的に陳腐化されたり、ごく一部の機能パーツの変更によるモデルチェンジで愛用製品が旧型になってしまうことに疑問を感じたことからスタートした。例えば、写真好きのスマートフォンユーザーであれば、購入時に高性能なカメラユニットが選択できたり、後から最新の撮像素子を内蔵するユニットに交換できても良いのではないかというわけだ。
かつての同種のプロジェクトと異なるのは、2013年の9月にプロジェクトを公開して以来、SNSやユーチューブを活用して実際に約98万人のサポーターや50万人を越すフォロワーを獲得し、現在はプロトタイプ開発にまでこぎ着けている点である。
一方で後者のアラは、大企業のモトローラが立ち上げたプロジェクトということが、過去にない動きと言える。同社の携帯電話部門はグーグルが買収しているため、つまりは、グーグルもバックアップしているということになる。
こちらはもう1年以上にわたって進められてきたプロジェクトだといわれるが、実際に公にされたのは10月のことだった。というのは、どうやらフォンブロックスの人気が、プロジェクト・アラの公開時期に影響したところもあるようなのだ。
モトローラ(=グーグル)は、いわば、アンドロイドのハードウェア版をアラによって実現しようとしている。基本設計やコネクタの構造、あるいはモジュールサイズなどの仕様を決めて無償で公開し、後は、さまざまなメーカーが得意分野を生かしてスマートフォンや機能パーツをつくれば良いという考え方だ。
これは、すべてをクローズドにして自らの考える最高の製品をつくり上げようとするアップルの対極に位置するコンセプトであり、同社には真似のできないスマートフォンをつくるという意味で、とても興味深いストラテジーである。
さらに面白いのは、フォンブロックスのコアメンバーがモトローラを訪れて、パートナーシップを結んだ点だ。フォンブロックスにとっては、単独で基本設計を完成させたとしても、実際のスマートフォンの開発にはそれなりのノウハウが求められるので、その方面のエキスパートと組むことは必須と言え、モトローラにとっても、この大胆なコンセプトを普及させるうえで、似たようなことを考えていたパートナーの存在は心強いはずである。
ただし、両者はパートナーではあっても資本提携などはせず、フォンブロックス側も、モトローラからの資金援助などは受けずに、自前で開発費などを調達するとしている。
さて、そこで、これらが商品化されたとして、どこまで支持を集められるかだが、個人的には少し否定的に見ている。というのは、1つには、一般消費者がどこまで個々の機能パーツに意味を見出して、積極的に交換していくかが疑問だからだ。
そして、どちらも基本となるフレームにモジュールを組み合わせる構造を採る以上、単純に考えてフレームよりも薄い製品をつくることはできず、モジュールの集合体となる全体のフォルムやディテールも、ある一定の範囲にまとまらざるを得ない。
さらに、これらのモジュールのバリエーションは、現在のアンドロイド携帯のハードウェアの差異以上に大きくなることが予想されるため、アプリ開発者による互換性確保のための努力も相当必要になるだろう。
もちろん、これらの壁を打ち破る秘策が用意されているのかもしれないが、技術的なブレークスルー以上に、人々の考え方をスイッチする方法論が求められているように感じられるのである。
大谷和利/テクノロジーライター、東京・原宿にあるセレクトショップ「AssistOn」のアドバイザーであり、自称路上写真家。デザイン、電子機器、自転車、写真に関する執筆のほか、商品企画のコンサルティングも行う。著書は『iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』『43のキーワードで読み解く ジョブズ流仕事術:意外とマネできる!ビジネス極意』(以上、アスキー新書)、『Macintosh名機図鑑』『iPhoneカメラ200%活用術』(以上、エイ出版社)、『iPhoneカメラライフ』(BNN新社)、『iBooks Author 制作ハンドブック』(共著、インプレスジャパン)など。最新刊に『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社)がある。