vol.38
「ゴルディーブロックス」

今ではスマートフォンの普及によって事情も変わりつつあるが、少し前まで日本の女子大生の中には、大学に入るまでビデオカメラで動画を撮影した経験がないという人も少なからず存在した。

女性の社会進出が進む米国では、そこまで極端ではないにしても、技術系の職に就く女子生徒の数は男子に比べて圧倒的に少なく、職業エンジニアの89%は男性であるという統計結果も出ている。

スタンフォード大学でエンジニアリングを学んだデビー・スターリングも、クラス内に同性の学生が少ないことに疑問を持ち、その1つの要因として、子供の頃からブロックトイなどのテクニカルなオモチャで遊ぶ機会が与えられていないことに思い当たった。

さらに言えば、男児と女児の玩具に対する興味の持ち方が異なることもあり、実際に女の子が遊んで面白いと感じ、しかも無意識のうちにエンジニアリングの基礎となる知識が得られるようなエデュテイメントトイ自体が存在していなかった。

そこでデビーは、クラウドファンディングのキックスターターで、女の子のためのエンジニアリングトイ開発のプロジェクトを立ち上げて、資金を集めることに成功。そうして生み出されたのが、「ゴルディーブロックス」(第一弾となるスピニングマシンセットで29.99ドル)である。

デビーは、調査の結果、女児が男児よりも読み物を好み、その世界の中でさまざまな空想をして楽しむことに気付いた。そこで、ゴルディーブロックスのパッケージ内にも単なるブロック的なアイテムだけでなく、課題を与えるためのストーリーブックを含めることにした。そのストーリーの主人公の名前がゴルディーであり、彼女やペットの犬のナチョ、そしてその仲間たちが遭遇する問題を、子供たちがペグボードの上で解決してあげるのだ。

また、アイテム自体も、プーリーは糸巻き、ベルトはリボンというように、手芸コーナーで目にするものにヒントを得てデザインされ、女の子が親しみを持って遊べるように工夫されている。

例えば、ナチョが自分のしっぽを追いかけるように回転するにはどうしたら良いか?という課題は、やがて仲間が全員でその輪に加われるようにするという流れに発展していく。スピニングマシンセットでは、動力の伝達について学べるが、今後登場するシリーズ製品によって、エンジニアリング的な思考に必要な知識が段階的に身に付けられるようになる予定だ。




大谷和利/テクノロジーライター、東京・原宿にあるセレクトショップ「AssistOn」のアドバイザーであり、自称路上写真家。デザイン、電子機器、自転車、写真に関する執筆のほか、商品企画のコンサルティングも行う。著書は『iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』『43のキーワードで読み解く ジョブズ流仕事術:意外とマネできる!ビジネス極意』(以上、アスキー新書)、『Macintosh名機図鑑』『iPhoneカメラ200%活用術』(以上、エイ出版社)、『iPhoneカメラライフ』(BNN新社)、『iBooks Author 制作ハンドブック』(共著、インプレスジャパン)など。最新刊に『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社)がある。