NEWS | プロダクト
2013.04.30 10:55
建築家の寺田尚樹さんが代表を務めるテラダデザイン一級建築士事務所が下北沢に移転し、その一角に「寺田模型店」がオープンした。
寺田模型店は、福永紙工とのプロジェクトで生まれた「テラダモケイ 1/100建築模型用添景セット」を販売する実店舗だ。これまで住宅編やオフィス編など、建築模型としての使用を想定したものから、東京やニューヨークといった都市の風景編、あるいは動物園や恐竜など夢のある世界を描いたものまで、さまざまなバージョンがリリースされてきた。4月現在では31セットあるが、ひと月に1セットのペースでシリーズは増え続けている。
主にミュージアムショップやデザインショップなどで販売されているが、寺田さんは「ラインナップが増えてくると面積も必要になるので、すべてを取り扱うのが難しくなる」と説明。「僕としては、1から今後つくる100までの全セットが見られる場所がつくりたかったんです」と、事務所移転を機に店舗を併設した理由を語る。
▲ 住居表示を模した看板が目印
若者がふらっと入ってこられる町
少年時代からプラモデルが好きだった寺田さんがイメージしたのは、町の模型店。「テラダモケイはもともと好きなプラモデルから発想したものなんです。小学校から帰ると毎日のように近所の模型店に通っていました。店では実物を手に取ってどれにしようかと迷う楽しさがあった。今は量販店やネット通販が主流ですが、僕にとって思い出深い業態として昔ながらの模型店をイメージしたのです」。
オフィス兼店舗は、下北沢駅南口から徒歩5分ほどの場所にある。神保町や代官山なども候補にあったが、「今までとは異なる層にアプローチしたい」と、音楽や古着、サブカルチャーに関心の高い若者が集う町に決めた。寺田模型店は土日のみの営業のため、用途はオフィスとしての側面が強い。商店街など人通りの多いロケーションではなく、少し外れた静かな路地を選んだのはそのためだ。
「賑やかな通りからは離れていますが、向かいに有名なカレー店があり、人の往来はそれなりにある。シモキタは若い人がぶらぶらできる町。知らない店でもひょっこり入れる雰囲気がある。これからどういうことが起きるかわからない面白さがあります」と寺田さん。
▲ 地下1階が事務所兼店舗
▲ 寺田模型店の営業は土曜日と日曜日のみ
また、設計事務所としてクライアントのアクセスが良い場所とも言える。「来ていただく、というのはデザイナーにとってとても大切なことなんです」と寺田さん。これまで手がけたプロダクトや模型をオフィスに並べ、あるべき状態で実物を見てもらうことでより多くのことが伝えられると考える。以前に新宿歌舞伎町にオフィスを構えていたのも、「クライアントに来てもらう」ため。飲食店が多く、打ち合わせ後のコミュニケーションにも好都合だった。
商品ラインナップと仕事場を同時に見せる
かつて貸しギャラリーだった地下の空間は、縦長のワンルームで開放感がある。そこを約7mに及ぶ長いガラス壁で仕切り、手前側約15㎡を模型店のスペースとした。人がやっとすれ違うことのできる通路のように細長いスペースだ。
▲ 店舗は細長い廊下のような空間。ガラスを隔てた左側は事務所スペース
▲ ずらりと並ぶ商品。什器は建築家の長岡 勉さんによるもの。NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]のグループ展にテラダモケイを出展した際に、長岡さんがデザインした什器をカスタマイズして使用する
壁側に商品や組立サンプル、映像などを陳列し、片側のガラス面にはテラダモケイのサンプルを展示。ガラス面のサンプルは現状32セットだが、将来的に100セットまで展示できるようスペースが確保されている。「添景セットはプロダクトデザインというよりはグラフィックデザインという考え方でつくっています。実際、パーツを切り離さずにそのまま飾っている方も。だからここではガラスに貼り付けてグラフィックとして見せたかった」。
添景セットのシルエット越しに奥で働くスタッフの様子が垣間見える。当初は、空間の一部を仕切って独立した店舗にすることも考えたというが、店舗とオフィスが別世界のようなあり方は避けたかったという。「商品が生まれる背景として、仕事の現場を見てもらいたいという気持ちもあった」と、もとの空間にガラス壁を1枚差し挟むだけという最小限のデザインに落ち着いた。
▲ 「テラダモケイはプロダクトデザインというよりグラフィックデザイン」と言う
▲ ガラスの向こうに仕事をするスタッフの姿が垣間見える
▲ エプロンをつけた“店長”役の寺田尚樹さんが、レジ立つことも。後方の螺旋階段には寺田さんが集めたプラモデル(非売品)を展示
寺田模型店では「月刊テラダニュース」と題した新聞を配布したり、企業とコラボレーションした特別仕様の添景セットを販売するなど、ほかではできないことに力を注ぐ。しかし、店の主目的はあくまで情報発信と情報収集だ。「店舗はデザイナーとしての考えをプレゼンテーションするだけでなく、お客さんのナマの声をつくり手が聞ける場」と寺田さんは考える。
「商品企画の段階からプロジェクトに加わることが多いのですが、ブランドを仕立てて商品が完成するまでは関わるけれど、その後の売るところまで立ち会う機会はあまりありません。でも企画からプロデュースまで携わる以上、販売という最終段階まで見届けたい。店をつくろうと考えたのも自然な流れでした」。
そう語る寺田さんは、週末になるとエプロンをつけてレジに立つこともあるそうだ。若いカップルがふらっと入ってきては商品を手にして話す内容が、次回作を考えるきっかけにもなるという。今後は、模型店と打ち合わせスペースを使って子供向けのワークショップを開催するなど、地域に対しても開いた場にしていきたい考えだ。(文・写真/今村玲子)
▲ レジ側から入り口を見たところ
▲ エントランス付近は打ち合わせスペース。今後、ここで子供向けのワークショップなども展開していきたい考えだ
住 所:世田谷区北沢1-45-11 B1F
営業日:土曜日、日曜日のみ営業
営業時間:11:30〜19:00
電話番号:03-6804-9174(悔いなし)
今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。自身のブログはこちらまで。