| 建築
2020.12.08 17:00
建築家・坂 茂が設計から現場監理まで手がけた、スウォッチ社およびオメガ社のキャンパスは、世界最大級の木材構造建築物である。
キャンパス内は、スウォッチ社の本社ビル、オメガ社の時計製造センター「オメガファクトリー」、そしてミュージアムやカンファレンスホールなどを備えた「シテ・ドゥ・タン(Cité du Temps)」の3棟で構成。
坂は3棟に一体感を持たせるために、共通の建材やデザイン言語を採用。その一方で、スウォッチ社・オメガ社の個性を対照的な構造形式で表現した。また、木材を使った最新の設計技術を投入することで、環境にも配慮した建物として、これからの建築の在り方を示すものにもなっている。
スウォッチ本社は、革新的で遊び心に溢れたデザイン。ひと際目を引く11,000㎡の広大な屋根を構成するグリッドシェルは、7,700もの木の部材で組み上げられている。部材はすべて異なった形状をしており、そのひとつひとつが最新の3Dテクノロジーを用いて、0.1ミリ単位の精度で削り出されている。
オメガファクトリーは、木造建築では類を見ない、クリーンルームを擁する直線的な建物。精密な時計部品が組み立てられるため、床の振動を抑えることに細心の注意が払われている。また、デザイン面では、オメガ社の社風そのままに正確さや堅実さを表現した。
一方、シテ・ドゥ・タンは、その間に位置する5階建ての木造ビル。スウォッチ・オメガ・ミュージアムやニコラス・G・ハイエック・カンファレンス・ホールが入居するなど、両社を繋ぐインターフェイスとして機能するようデザインされている。
3棟の建設には、高精度な木材3D加工、清潔で騒音のない建設現場、建設スケジュールのスピード化、環境への配慮など、木造建築ならではの利点が生かされているという。
また、快適で生産性の高い職場環境作りもまた、設計時に重要視された要素である。オメガ・ファクトリーは、建物全体を木の温かみが感じられるデザインとした。
休憩室には開放感溢れる全面ガラスのシャッターが設置され、緑豊かな屋外へと視覚的に繋がるように配慮しており、それを全開することにより外部と一体化した空間を実現。スウォッチ本社屋にも、常緑樹のブラック・オリーブや階下を見下ろすギャラリーなど、社員の活発なコミュニケーションを生み出す開放的な空間となっている。