10代で発症するケースが多い1型糖尿病は、主に自己免疫性の異常により、脾臓のランゲルハンス島でインスリンを分泌するベータ細胞が死滅する病気である。生活習慣への依存率が高い2型とは異なって予防する手立てがなく、罹患すると、ほとんどの場合にインスリン注射が手放せなくなる。そのため、医師ではなく患者が自らの手で注射を行うための器具も発達してきた。しかし、それらの器具は子どもたちの手に余ったり、毎回、同じ場所は避けて打つというルールを徹底するのが難しいという側面があった。
「サミー」は、この問題を、子どもでも扱いやすい形状の注射器(再利用可能なインスリン・ペン)と、針を差すべき場所を示すタトゥーステッカーを組み合わせることで解決したインスリン注射キットだ。
腹部用と腕用に分かれたタトゥーステッカーは、子どもが喜んで転写しそうなパターンがいくつか用意されており、注射した箇所は指で擦って簡単に消すことができる。この仕組みによって、子どもたちは注射の必要性を思い出しやすくなるとともに、毎回、容易に異なる場所にインスリン注射を打てるのだ。
実はサミーのコンセプトモデルは2017年から公開されていたが、製品化に時間がかかり、昨年ようやく専門の法人が立ち上がって、一般向けの販売が始まった(ただし、通販で購入できるのは継続治療用のタトゥーステッカーのみで、インスリン・ペンは医師の診断をもとに供給されるようだ)。
折しも、新型コロナウイルスは、一度抗体ができても数カ月で消滅する人もおり、再度感染する可能性も指摘されている。つまり、もしワクチンが完成しても、定期的に接種し続けなければ、感染予防効果が薄まる人たちが出てくるかもしれないのである。
もちろん、その場合でも頻度は1型糖尿病患者のインスリン注射に比べれば少なく、特に日本では薬機法(旧薬事法)などによる規制の関係で、一般消費者が自分で打てるようなものにはならないだろう。しかし、ウィズ・コロナ時代のニューノーマルのあり方に目を向けるならば、ワクチン摂取を病院ではなく、サミーのようなシステムを応用して自宅で簡便に済ませられるような社会システムを整える国が、ひょっとすると現れるのではないか? そんな考えが、ふと頭をよぎった。