当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。
“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。
I love hearing about local businesses getting some of the wooden money coming in❤️❤️
今日のトピック
米国ワシントン州のテニーノ市(Tenino)が、パンデミックの経済的打撃から市を守るため、市内でのみ使える木製の地域通貨を発行、5月から導入しています。
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テニーノ市の人口は、約1900人。1800年代後期から石の採掘が行われ、その後は林業や農業を主な産業として栄えました。しかし、第一次世界大戦と大恐慌により経済的な打撃を受け、景気回復のために、1931〜33年にテニーノ市初となるオリジナル木製通貨が発行されました。材料となる木材は、テニーノ市がある太平洋岸北西部で豊富に入手できるものです。
今回導入された木製通貨は、ベニヤ製で1枚25ドル(約2600円)の価値があります。テニーノ市在住かつパンデミックが原因で経済的な被害を受けたと証明できれば、月額300ドル(約31000円)の助成金として受けとることができます。やや少ない印象ですが、これまでに12人が受給しているそうです。生活必需品の購入や地下鉄の支払い、レストランなど市内15カ所で利用可能。ただし、アルコール飲料やタバコ、ワシントン州合法のマリファナには使えません。木製通貨を受け取った店舗は、月に2回、市役所で現金に換金することができます。
この制度を導入したウェイン・フルニエ市長(Wayne Fournier)は。なかなか特殊な経歴を持った人物です。
市長は、もともと消防士でしたが、その頃から地元の指導者たちを批判したゲリラアートを匿名で制作しており、作品は市内で有名だったそうです。正体を明かすと、すぐに市議会の議席を獲得。2016年に市長に就任しました。
市長は、新たに農業雇用を創出するための150件を超える計画に取り組んでいましたが、コロナウイルスの影響を受け、実現は難しい状況でした。そこでワシントン州のなかでも特に困窮状態にあるテニーノ市の経済を回復させるため、大恐慌の時に使われた木製通貨の発行を決定しました。
今回のフルニエ市長の行動は、世界各国のメディアで紹介され、国内外から寄付が寄せられたそうです。さらには木製通貨の購入希望者も多数あらわれたほどです。メディアでの紹介がテニーノ市の外部の人々からの支援のきっかけとなりました。
地域通貨は経済活性のための施策のひとつですが、導入にはリーダーによる的確な判断と決断が求められます。世界中がコロナ禍での対策を思考錯誤しているいま、改めてリーダーの大切さを実感しています。
例えばドイツのメルケル首相。3月18日に発表されたドイツ国民へのコロナウイルスへの向き合い方を共有する言葉と姿に、日本人の私も励まされました。台湾のコロナウイルス対策もスピーディで効果的です。8月に入っても感染者数の合計は500人を切っており、死者数は一桁を維持しています。やはり不測の事態では的確な判断力と実行力があるリーダーが求められます。
テニーノ市のような小規模のコミュニティでは特にリーダー次第で市民の生活が良くも悪くも大きく左右されます。この木製通貨は長期間流通させることは難しいでしょうが、テニーノ市の歴史と、行動力のあるフルニエ市長がいたから効果的な時期に導入できたのかもしれません。