REPORT | 建築
2011.08.12 11:57
昨年の第12回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館で行われた「Tokyo Metabolizing」の帰国展となる本展。気鋭の建築家が手がけた住宅を紹介することで、東京に密集する小さな住宅が新陳代謝を繰り返すように建て替えられることで、変貌する都市の有り様を浮き彫りにする。
東京という都市は、相続税に伴う土地の売却によって世代を経るごとに切り刻まれ、その結果小さくていびつな形の土地が無数に集まって成り立っている。これまでの都市論において、そうした状況はどちらかといえば批判的に見られることが多かった。ところが近年、若い世代を中心にそうした環境でも積極的に家を建て(リフォーム含む)、隣人やコミュニティとのつながりを大切にしながら、自分たちなりの住みやすさ・暮らしやすさを追求していくポジティブな姿勢が生まれつつある。
▲北山 恒「祐天寺の連結住棟」(2010年)展示:1/20模型
本展では特別に北山氏が手がけた集合住宅も紹介された。1/20の模型を横向きに展示し、地域一帯を俯瞰することで、周囲の建物との関係、住戸間の関係についても読み取ることができる。
昨年開催された第12回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展において、日本館コミッショナーを務めた建築家・北山 恒氏は「Tokyo Metabolizing」と題して、短いスパンで街が変貌し続ける東京の有り様を示した。
「Metabolizing」という言葉からは、60年代に菊竹清順や黒川紀章らによって推進された建築運動「メタボリズム」を思い浮かべるだろう。メタボリズムは有機的に新陳代謝をしながら、変化し成長する建築や都市を提唱したものだった。ヴェネチア・ビエンナーレでは、発表から50年を迎えた日本発の建築理念を現代に置き換え、東京というメガストラクチャーが現在進行形で変貌していく様相を、“現代のメタボリズム”として問い直したのである。
▲WOWによるCG映像が伝える現代の東京の姿。世代交代のたびに土地が細分化され、住宅が建て替えられるなど、至るところで細胞分裂を繰り返しながら、表面の姿を変えていく中心のない都市。大資本によって形成される摩天楼都市ニューヨークや、権力の象徴を中心に放射状に広がるパリとは全く異なる原理で成り立っていることがわかる。
今回の東京展では震災を経たことで、上記のテーマに軌道修正を加えた。ポイントは、「Tokyo Metabolizing」の特徴でもある「住み方の変化」「家族以外の人とつながる新しいコミュニティ」といった要素に焦点を当てていること。
▲アトリエ・ワン「ハウス&アトリエ・ワン」(2005年)展示:45/100(約1/2)模型。
▲約1/2模型をのぞき込むと、精巧な模型が置かれ、まるで実物を見ているかのよう。
▲バルコニーや屋上といった半屋外空間や大きな窓を設けることにより、外にも中にも意識を向けることができる。
例えばアトリエ・ワンの「ハウス&アトリエ・ワン」は、建築家夫妻の住居兼オフィスであり、プライベートとパブリックを分けないライフスタイルが実践されている。また西沢立衛氏の「森山邸」は、1つの敷地のなかにオーナー住居とワンルーム住居が分散して建てられた集合住宅。独立した“箱”をつなぐのは路地や庭であり、「拡張した家族」のような小さなコミュニティとして成り立っている。いずれも展覧会タイトルのように中と外、家と都市を対立させるのではなく、むしろその境界をあいまいにすることで、居住者や出入りする人々、地域の人々とのゆるやかなつながりを感じられる環境をつくり出している。
▲西沢立衛「森山邸」(2005年)展示:1/2模型
▲敷地を区切る塀や柵がないため、周辺の住民も敷地内の路地を通ることができる。
さらに会場の最後に示される「あたらしい都市のインデックス」では、変化し続ける東京の行方について、さまざまな側面からヒントを提示。「道路は人のためにある」「手の届く世界の中で生きる」「お年寄りが街をつなぐ」などポジティブなキーワードが並ぶが、それは戦前の東京論そのものと言えるのかもしれない。細い道路が網目のように広がり、小さな家々が密集した東京の住宅地を否定するのではなく、人と人をつなぐメリットとしてとらえなおすことで、未来に向けたポジティブな都市論が展開できるのではないだろうか。(文・写真/今村玲子)
「家の外の都市(まち)の中の家 Tokyo Metabolizing
第12回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展帰国展」
会 期:2011年7月16日(土)〜10月2日(日)
11:00〜19:00 (金・土は20:00まで)
月曜休館
入場料:一般1,000円、大・高校生800円、中・小学生400円
トーク:ゲストを招いたトークを、9月4日、6日、15日、18日に開催予定
詳細、申し込みはウェブサイトまで
今村玲子/アート・デザインライター。出版社を経て2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。自身のブログはこちらまで。