当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。
“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。
今日のトピック
英のデザインスタジオBompas & Parが手洗いを再考するコンペティション「Fountain of Hygiene」を主催。応募総数182点から8つのカテゴリーごとに優勝者が選出され特設ページで発表されました。上位10名、合計80名の提案は模型化されDesign Museumに展示される予定です。その後模型はクリスティーズでオークションにかけられ、収益金は英赤十字に寄付されます。なお、応募者は必ず英国赤十字社に自分で決めた金額を寄付しなければいけません。
SPREADはこう見る
世界中で健康を維持するために行われている手洗いや消毒。このコンペは、社会全体の衛生状態を高める可能性を探ると同時に、新しいアイデアを募集することでクリエイティブ業界に刺激を与えるために企画されました。すぐにアイデアを実用化することは難しいですが、ゆくゆくは人々が公共スペースで安心して過ごすためのヒントになることを期待しています。
このコンペのパートナーを見るとDesign Museum、クリスティーズ、赤十字、Dezeenと錚々たるメンバーが揃っていることに驚かされます。
審査基準は4つ。イノベーション、機能性、社会的なインパクト、そして作者の美学です。賞のカテゴリーは「Industrial Design」、「Luxury Design」、「Sustainable Design」、「Hygiene Innovation Beyond Sanitiser(消毒液の概念を覆す革新的なデザイン)」、「Gesture&Ritual(ふるまいと様式)」「Awareness and Communication(意識とコミュニケーション)」「Child-Directed Design(子供向けデザイン)」「Cadet Designer(18歳以下のデザイナー)」の合計8つ。さらに追加で、ホームページの閲覧者が投票して決めるピープルチョイスアワードがあります。
「Gesture&Ritual」カテゴリー上位10組のひとつ、Claudia Brewsterさんによる「Sanitie」は、手首と薬指に消毒液が入ったリングを装着し、着けた者同士が握手をすると圧力でお互いの手の平に消毒液がスプレーされます。本来手の接触は感染リスクがありますが、そこに除菌できる装置を追加することでコロナ禍でも握手がポジティブな行為になるアイデアです。
「Hygiene Innovation Beyond Sanitiser」カテゴリーのファイナリストのひとつで、Marina Ieridouさん、Austera Premakaraさん、Arum Larasati Winarsoさん3名による「HALO」は、顔の周囲に見えない消毒効果のある紫外線の膜を放出するネックレスです。たとえ手にウイルスが付着した状態で顔に触れても触れる頃には消毒されているので安心です。
「Industrial Design」部門の優勝者Steve Jarvisさんは、消毒液のシャボン玉が空を舞う「The Bubble Party」を提案しました。遊びの要素と消毒を融合させた、老若男女が楽しめるアイデアです。
「Luxury Design」部門の優勝者Sally Reynoldsさんの消毒液は、銅とカラフルなリサイクルプラスチックをシンプルな形状にまとめた「Step One」です。フットペダルを押すと細長いノズルから消毒液が出てくる仕組みで、公共スペースをエレガントに演出する効果が期待できそうです。
このコンペティションは、主催側の組織づくり、カテゴリー設定、審査、応募条件、審査後の展開とすべてにおいて高いクオリティです。準備に十分な時間がなかったであろう状況で展開スピードの速さ。主催スタジオの実力とともに、人の命に関わるテーマにおけるデザインの役割を示した良い一例だと感じました。
Bompas & Par
イギリスを拠点とするデザインスタジオ。アート関連機関、企業、政府などと連携し活動している。現在、デザイナー、料理人、専門技術者、プロデューサー、映画製作者のチームで構成されており、構造エンジニア、科学者、芸術家、心理学者とも仕事を進めている。