NYタイムズウェブ版に掲載、
失われた100,000人ひとり一人の命の
尊さを伝えるインフォグラフィック
「An Incalculable Loss」

当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。

“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。

今日のトピック

NYタイムズが3月1日から5月27日までの米国におけるコロナウイルスによる死者10万人を記録したインフォグラフィック「An Incalculable Loss」を公開しました。

SPREADはこう見る

これを見て心を痛める人がいるかもしれません。少なくとも私たちには衝撃的なものでした。だからこそ心構えをしていただいた上で、できる限り多くの人に見てほしいと思います。下記をクリックしてご覧ください。

5月24日付けのNYタイムズ紙の1面に、コロナウイルスで亡くなった1000人の氏名が掲載されたことは、記憶にある方も多いかと思います。これはその後、10万人に達した5月27日までの人数を追加し、ウェブページに展開されたインフォグラフィックです。ページトップの人のシルエットは、Patricia Dowdさん、カルフォルニア州サンノゼに住む57歳、「シリコンバレーの監査役」と記載されています。少し下にはMarion Kruegerさん、85歳の「ほがらかなおばあちゃん」。下にスクロールしていくと、シルエットはパラパラと増えていき、すぐにおびただしい数になります。シルエットひとつ1つが、亡くなった方を表しています。スクロールは延々と続き、5月27日、死者数が10万人に達したところで終了します。DowdさんやKruegerさんのように、ところどころに氏名と職業が記してあり、彼らが生きた証を克明に伝えています。

これを見て日に日に死者数が増加していったことを実感し正直、気持ちをうまく整理できませんでした。たくさんの命がなくなってしまった事実を前に感じたことを、なんと言葉にしたらよいのか。

死者数をビジュアライズしたものは他にもあります。ではなぜ、このインフォグラフィックがこんなにも胸が締め付けられるように迫るのでしょうか。これは数字やグラフではなく、ひとり一人をシルエットで表し、そのサイズや形はさまざまです。小さな子供から女性、老人のような姿まであり、それらが佇む様子は、まるで街の風景を俯瞰で見ているようです。影が落ちていることも印象に加わり、存在感にリアリティが生まれています。そして普段何気なく行なっている「スクロール」により、すごい勢いで死者数が増していくスピードを実感します。たった3ヵ月間で10万もの人が亡くなってしまいました。

唐突かもしれませんが「いつ死んでも後悔がないように今やれることをやっておこう。」と改めて思いました。日常にある死の存在の近さをこのウェブサイトによって感じたのです。最近制限が緩和されるなかで迷いが生まれていました。「みんな乗り始めているし、電車での移動を再開しようかな」「居酒屋で久しぶりに友だちと会いたいな」などなど。周りがやっているからと、以前通りの生活についつい戻りたくなってしまいます。しかしこれを見て、そんな迷いはふっきれました。いまを生きるためにできることを精一杯やろう。そう思わせる力を持ったウェブページです。End

▲本プロジェクトをレーダーチャードで示しました。6つの属性のうち、成果物のデザイン性を「Creativity」で評価しています。「Pure & Bold」は目的に対して一途な強さを感じるか、やりきっているかという、SPREADが自らの仕事において大切にしている視点です。