当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。
“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。
今日のトピック
スイスを拠点とするデザインコンサルティング会社、HyperAktiv.liが、マスクから感じるネガティブなイメージを払拭しようとマスクの再解釈を行う「BYOM(Bring Your Own Mask)」プロジェクトを立ち上げました。目的は、デザイナーが持つ美意識や哲学と機能性を組み合わせながら新しいマスクのあり方を提案すること。デザイナーと学生に呼びかけたところ、合わせて41人から36件のデザインが集まりました。
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提案のなかから気になったものを紹介します。
顔全体が見えず表情がわかりづらい。このマスクのデメリットを解決するのが「face」です。自分の顔の写真から3Dプリンターで型をおこし、リサイクル可能なポリエステルでつくります。密着感をどう感じるかが気になるところですが、もし表情の変化に伴って形を変えることができれば、感情が伝わらずに生じる人間関係のストレスや衝突を軽減できるかもしれません。接客業やテレビ番組の出演者など他人への印象を大切にする人にも重宝されそうです。
使い捨てマスクがプラスチックゴミを増やしているという問題に着目したのは「L’usage unique du monde」。不織布マスクの素材は、PP(ポリプロピレン)やPE(ポリエチレン)など、ほとんどがプラスチックです。この提案では、同じくプラスチック製のマドラー、ストロー、綿棒をそれぞれ使った3種類のマスクを通して、世界中で大量に捨てられている現状の深刻さを訴えています。
一方、子供たちに積極的に装着してもらえるようにと、遊び心を持って制作されたのは「Hero」。その名の通りスーパーヒーローがつける仮面のように口元、鼻、目の周りを覆いますが、マジックテープで顔に固定するため着脱は簡単です。ヒーローになりきりながら、感染リスクから身を守れるので、マスクを嫌がる子供たちに有効なアイデアと言えそうです。このマスクがあれば、幼稚園や保育園でも子供たちが安全に楽しく遊べるかもしれません。
このプロジェクトでは、実用性もさることながら、マスクを通して社会への問いかけやメッセージが込められたものなど多種多様なアイデアが提案されました。そこからは、機能重視にならざるを得ない状況下でもデザインに求められる役割や可能性を諦めない潜在的な意志を感じます。
HyperAktiv.li
スイスを拠点とするデザインコンサルティング会社。クリエイティブ業界と企業をつなぎ、イノベーションを推進するためのサポートやリサーチ、開発、起業支援などを行う。プロダクトデザイナー、グラフィックデザイナー、イノベーションの専門家で構成されている。2016年設立。