当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。
“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。
Xylinum Mask from Garrett Benisch on Vimeo.
今日のトピック
アメリカのデザインスタジオsum studioのエリザベス・ブリッジズ氏(Elizabeth Bridges)とギャレット・ベニッシュ氏(Garrett Benisch)は、マスク不足を解決するために素材をつくるところから製作、完成までを自宅で行うマスク「xylinum mask」を考案しました。
SPREADはこう見る
素材となるセルロースシートは、水、茶葉、砂糖と少量のバクテリアを原料とし、約2週間で培養できます。有機物からつくられる「xylinum mask」は、数あるマスクの中でも、人の肌に一番近いのではないでしょうか。また、顔の半分が隠れてしまう通常のマスクと違い、透けているので表情もわかります。
販売されているマスクのなかに、病原体の粒子を高確率でブロックするN95マスクがあります。これはコロナウイルスの感染から身を守るためには心強いのですが、製造工程の複雑さゆえに生産量が少ないという問題があります。また、材質がプラスチック繊維のため環境に良いとは言えません。一方、「xylinum mask」で用いるセルロース素材は、顕微鏡で拡大すると、とても細かい網目状の繊維になっており、N95マスクの性能と大差ない防御力を実現するそうです。なお、季節にもよりますが、野菜と同じくらいの数週間という短期間で土に分解されます。
有機物がもつ単一でないテクスチャーの美しさが「xylinum mask」には、あります。そこに、これからの時代における美のあり方のヒントを感じます。
今後は「xylinum mask」の形状や耐久性、携帯性の検証が必要になるでしょう。加えて、製作に時間がかかることを考えると、世の中に波及するのは、まだだいぶ先になりそうです。それまでに、N95マスクの不足問題が解決されるかどうかはわかりません。
少し前まで、SDGsが話題になりましたが、いまは目前の緊急課題であるコロナウイルスの話題が多くなっています。海面上昇や排気ガス問題と同様に、ウイルスにも向き合っていかなければなりません。SDGsの17個の目標のうち、コロナウイルスはいずれかに当てはまるのでしょうか?もしくは新しい項目が追加されるのでしょうか?持続可能な世界に向かうためにも「xylinum mask」のような取り組みには期待したいです。