昨今は新型コロナウイルスの話題で持ちきりだが、それ以外にも人類を脅かす要因は自然環境のなかに存在している。それは、農業用の灌漑から先端産業の製品製造工程における洗浄まで必要不可欠な水資源だ。
水資源は、不足しても、また近年増加傾向にある水害のように過剰になっても、社会的に甚大な被害を及ぼす。ところが従来は、さまざまな場所に存在する水の量を把握するには、手間と時間のかかる人手に頼るか、精度に欠けるアナログの測定機器を使うか、あるいは高価で景観を損ねる可能もあるデジタルの測定装置を導入するしかなく、いずれの手法も全地球的な監視網を整備するうえで現実的とは言えなかった。
球形のロボティックトイ、スフィロの共同開発者だったアダム・ウィルソンが、ディビロッドというスタートアップ企業で新たに挑むのは、機械学習を用いた独自発想によるデジタル技術で、この問題を解決するというミッションである。
ディビロッドでは、各国の政府や自治体などの公的機関が公開している水資源のデータも用いるが、それだけではカバーできる範囲が限られるため、ローコストで高精度な独自のIoTセンサーのメッシュからの情報を組み合わせ、リアルタイムで高精度な監視を実現する計画だ。
ディビセンスと呼ばれるこのセンサーは、すでに地球上空を飛び交っている約4,400機(国連宇宙部による2017年のデータ)もの人工衛星から発せられ、地表や水面に当たって反射するさまざまな信号を捉えるために用いられる。そして、その信号の共振パターンを機械学習アルゴリズムによって解析することで、湖や池、貯水池はもちろん、雪や土壌、植物内の水分量に至るまで正確に把握して地球規模の水量マップを構築できるという。
センサーは反射した信号を受けるだけなので、水に直接接する必要がなく、1ノードあたり10エーカー(約4万㎡)のエリアをカバーできるため、設置に伴う手間やコストも最小限で済む。
もちろん、地球規模のウォーターマップの構築にはさまざまな機関や組織、団体の協力が必要であり、ディビロッドでは、水に関わる企業や人々が、このシステムの有用性を認めて導入を進めてくれることに期待している。また、一見、異業種と思えるホテル業界や不動産業界など、各地に拠点を持つ企業が、ディビセンスの設置に協力することで、新規事業に結び付けられる可能性もある。
それが実現すれば、干ばつや水害の事前予測の精度を高め、限りある水資源を有効活用することが、今よりもはるかに迅速かつ効率的に行えるようになるに違いない。