PROMOTION | 展覧会
2019.06.11 11:34
ガラス・電子・化学品・セラミックスなどの多彩な素材とソリューションのプロバイダー、AGC。同社の東京・京橋にある体験型ショールーム、AGC Studioで2019年5月24日から「EMERGENCE OF FORM MILAN DESIGN WEEK 2019 TOKYO EDITION」が開催中だ。今年4月のミラノ・デザインウィークでの展示を再構成したもので、ガラスだけでなく、セラミックスを含む同社の素材と技術を間近に見ることができる。本プロジェクトを主導したプロダクトデザイナーの鈴木啓太氏に本展の見どころを聞いた。
高い技術力だからこそ表現できる「自然」
ミラノ・デザインウィークでのインスタレーションに際し、AGCが掲げたテーマは「成形」と「ガラスとセラミックス」のふたつ。クリエイションパートナーには「富士山グラス」といったテーブルウェアから、「相模鉄道20000系」の車両デザインまでを手がけるPRODUCT DESIGN CENTER代表の鈴木啓太氏を招いた。
鈴木氏は、AGCが最終製品のメーカーではないこと、また、ガラスはもちろん、ガラスを製造するために培ったセラミックスの素材技術に秀でている点に着目。それをダイレクトに表現すべきだと考えた。鈴木氏が設定したテーマは「自然」。「自然をいかに表現するかは、美術やデザインの領域において、クリエイターが常に挑戦してきた重要なテーマ」としたうえで、AGCの最先端技術だからこそ、人工物による「自然」をつくり出せるのではないかと考えたと言う。
本展示では、技術を使っていかに「自然」を表現するかをテーマに、ガラスとセラミックス、異なるふたつの素材を用いたふたつの大型作品が展示されている。
ガラスが自然に曲がって生まれる形
ミラノ・デザインウィークの展示は、ミラノ中央駅の高架下に残る古い倉庫を利用した会場で行われ、暗く、湿気を帯びた様子が幻想的なイメージを醸し出していた。一方、東京会場のAGC Studioは自然光が差し込む明るい環境にある。その違いについて鈴木氏は、「ガラス作品はミラノのように垂直に展示するのではなく、平らに置くことで、1日の時の流れによってさまざまな表情を印象づけるはず」、と展示環境の違いによって生まれるガラスの表情の豊かさを語る。
AGC Studioの1階に展示された2種類の巨大なガラス作品「BUBBLES ガラスのシャボン玉」は、ミラノ出展時と同時期に製作されたもの。厚さ12ミリの板ガラスが、中心部分だけ曲面を帯びて突出している。これは、鉄道車両や自動車のフロントガラス成形時に使われる「自重曲げ」という技術で、1枚の板ガラスに部分的に熱をかけ、ガラス自らの重みで曲がる手法によってつくられた。さらに、曲げてから塗料を塗り、焼成窯に入れて発色させることで、曲面部分だけ虹色に輝いて見え、ガラスのシャボン玉のような効果を生んでいる。また、ミラノでの展示でガラスの縁を覆っていた枠は外され、厚い板ガラスの側面がむき出しになっていることで、見る人にいっそう素材感がダイレクトに伝わってくる。
例えば、鈴木氏がこれまで手がけてきた相模鉄道20000系をはじめとするモビリティデザインでは、全体を緩やかに曲げたフロントガラスが用いられる。しかしこの作品は、突出した部分と平らな部分がひとつのガラスのなかで共存し、それがこれまでに見たことのない不思議さと驚きを与える。実際、AGCとしても初めて取り組んだ形であり、鈴木氏は同社の成形技術の高さを伝えることができたとその意図を振り返る。
同時にそれは技術のみでなく、素材の持つ美しさを表現することでもあったようだ。鈴木氏は、「自然が持つ曲線の美しさに感動するように、自重で生まれる形がガラスにおいて最も美しい」との確信から、あえて人為的に形状をコントロールするのではなく、可能な限り突出部が大きくなるまで自重曲げに委ねた。鈴木氏によれば、「ガラスの多様な表情を見たくて、AGCの高度な技術によって限界まで曲げて実現した形」であり、ガラスの自然な揺らぎや風景が映り込む様を、「ガラスが自然に生み出す形の美しさ」としてとどめた。
セラミックスが描き出す波紋
1階に展示されているもうひとつの作品「RIPPLES セラミックスの水路」では、セラミックスで水の波紋を表現した。最新のセラミックス造形材料「Brightorb®」を応用した作品で、3Dプリンタで成形した後、釉薬をかけて焼成することで完成させている。Brightorb®は、通常の陶土の収縮率が約10〜15%であるのと比べ焼成時の収縮率が極端に少なく、思い通りの形状を容易につくり出すことができる同社の独自素材だ。その利点を鈴木氏は、1枚ずつ異なる波紋をデザインした陶板としてつくり出した。複数を並べれば、全体としてさらに大きな水の波紋が描き出される。
3Dプリンタから出力した陶板は、長崎にある波佐見焼の窯元に協力を得て完成させている。試行錯誤を重ねた釉薬は、水の波紋を強調するような深みのある艶やかな仕上がり。表面にはところどころに釉薬のムラが残り、3Dプリンタ成形時の積層痕が浮き出ている部分もある。鉄道車両や自動車のフロントガラスのような工業製品ならば、個体ごとに異なる釉薬のムラや3Dプリンタの積層痕などがあれば、不良品として製品にはならないだろう。しかし、鈴木氏は工業製品としての完璧さよりも陶器ならではの風合いや表情を優先したという。それがより自然な印象を見る者に与えているのではないだろうか。
ミラノ・デザインウィークへの出展に限らず、日頃からヨーロッパの企業やメゾンとの仕事を多く手がける経験から、鈴木氏は欧米の日本のものづくりに対する興味は近年、素材そのものに移行していると指摘する。「単に見た目の美しさだけでは、人の心は動かない。だからこそ、素材メーカーが次に取り組むべきポイントは、素材固有の表情がにじみ出るような美しさ。それが、精緻で狂いのない完璧さよりも一段階上の美しさになるのではないか」。セラミックス作品を手がけるにあたり、人の感情に訴えかけるような強さを持つ素材感を高度な技術で追求した背景には、こうした鈴木氏独自の鋭いアンテナがあるようだ。
素材と空間、作品コンセプトをつなぐイメージボード
AGC Studioの2階には、今回の開発プロセスと技術を解説するコーナーが設けられている。鈴木氏の言葉と直筆スケッチによる「Mind to Make」と題したイメージボードは、東京展のために新たに用意されたものだ。初期段階のアイデアから最終案に到るまでが試作品とともに展示されており、丁寧に見ておきたい内容が凝縮されている。ミラノに「自然」をつくりだそうとした端緒が、イメージボードから読み取れるはずだ。
AGCのミラノ・デザインウィークへの参加は、今年が5回目だった。一方、日本の多くのメーカーにとってミラノへの出展にはさまざまなハードルが伴うのも事実だ。「そもそもどうやって展示コンセプトを決めるのか」「どう表現したら訪れる人々の心に届くのか」といった疑問を抱えるメーカー担当者は少なくない。イメージボードの内容には、それらの疑問に対するヒントがちりばめられている。この展示からミラノに出展する企業間、もしくは各社と協業するデザイナー同士といった新たなつながりが生まれていく可能性も感じられた。
「今回は最新技術を用いることで素材の独特な表情、新しい豊かな表情を生み出せたことが大きな手応えでした。私自身が初めて知ったときに感動したように、見る人たちへインスピレーションを与えるきっかけになれば嬉しい」と鈴木氏は語った。
会場では1階の作品を感じ取り、2階で素材と技術について学び、再び1階の展示を見直すのもいいかもれしれない。今回の東京会場の魅力は、どのような技術と発想をもって「自然」というテーマが表現されたのかというプロセスを味わえること。そしてガラスとセラミックス、それぞれの素材の魅力を再発見できることだろう。身近な素材にまつわる先端技術を、よりエモーショナルに感じられる展覧会となっている。
最後に鈴木氏は、今回の両作品で探り当てたとも言える、素材の情緒的な表現方法について、「他のプロジェクトにも落とし込んでいくつもりです」と明かしてくれた。AGCと鈴木氏の次なる展開からも目が離せそうにない。
(Photos by Kaori Nishida)
「Emergence of Form -Milan Design Week 2019 Tokyo Edition」
- 会期
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2019年5月24日(金)~2019年7月13日(土)
10:00~18:00 ※5月24日(金)は17:00まで
休館日 日曜日・月曜日・祝祭日、6月8日(土) - 会場
- AGC Studio 東京都中央区京橋2-5-18 京橋創生館1・2階
- 入場
- 無料
- 日時
- 2019年6月14日(金) 18:30~20:00(受付18:00~)
- 日時
- 2019年7月5日(金) 18:30~20:00(受付18:00~)
- 定員
- 各回70名(事前申込・先着順)
- 申し込み
- ホームページより
- ウェブサイト
- https://www.agcstudio.jp/event/4039
【関連イベント同時開催】
AGC Studioにて、本展と連動したデザインフォーラムを開催します。(参加無料)
徹底解説 「Emergence of Form」
鈴木啓太 × AGCミラノプロジェクトメンバー
本年ミラノに出展したAGCのインスタレーションを徹底解説するトーク&ギャラリーツアー。トークでは、普段見せることのできない制作プロセスも紹介。ミラノ参加メンバーによる解説と合わせて展示を鑑賞することで、素材や技術をより一層楽しむことができます。
「ここでしか話せないミラノサローネのこと」
鈴木啓太 × 倉本 仁 × 村上雅士
鈴木啓太、倉本仁(2017年クリエーションパートナー)、村上雅士(2019年グラフィックデザイナー)、AGCとのミラノデザインウィーク経験者3名によるトークセッション。クリエイターにとってミラノはどんな意味を持つ場所なのか。異なる視点から意見をぶつけ合います。