「CITIZEN-CENTERED DESIGN(シチズンセンタードデザイン)」というタイトルを冠した今号の特集は、多様な人びとと、共につくり、共に考えるデザインアプローチの可能性やその方法を探るというものです。
デザインの金言に、「ヒューマンセンタードデザイン(人間中心設計)」という言葉があります。製品開発の初期段階から利用者の使い勝手を考慮するプロセスを規定した概念ですが、同時に、人間観察を通して、問題点とその解決方法に気づかされることを示唆してもいます。
対して、「シチズンセンタードデザイン」は、シチズンという名のとおり、多様な市民が社会を構成する一員としての責任を意識し、創意や工夫に満ちた活動を行政や専門家などとともに行い、課題を解決する――そんな市民が主体的に関わるデザインプロセスと言ってもいいでしょう。
人びとが自らの将来と課題を見据え、ありたい姿を描き、具体的なプロジェクトを構想して実行し、変化をつくり出していく。取材で訪れた東北の3つの公共施設では、市民が行政や専門家と連携し、互いの立場や考え方に折り合いをつけながら、「同志」としてまちづくりを進め、結果として市民力が高まるという好循環を生み出している様を目の当たりにしました。モラルや権利、義務といったものを背負った多様な人びとが社会的な目的を実現するために共創し、つくりあげた空間に、あるべきパブリックスペースの姿を見たような気がします。市民という利用者の使い勝手を考慮するのではなく、市民という多様な人びとと、共につくり出すアプローチこそが、豊かな社会をデザインするカギになりそうだということを感じとっていただければ幸いです。
「AXIS」増刊号として、“時のデザイン”をテーマにした「CITIZEN」も絶賛発売中です。期せずしてタイトルが重なった弊社刊行の2冊のシチズンをよろしくお願いします。