REPORT | ビジネス
2016.03.25 12:17
岩手県西和賀町が県内デザイナーと協働で地域ブランド「ユキノチカラ」を立ち上げ、第1弾となる8商品を発表した。
西和賀町は岩手県中西部に位置し、秋田県との県境に位置する人口約6,000人の町だ。県内で一番の豪雪地帯であり、過疎化が進んでいる。昨年9月に国の地域創生先行型予算を活用した「地域創生 地域づくりデザインプロジェクト」を発足。デザイン面を日本デザイン振興会と岩手県工業技術センター、ビジネス面を北上信用金庫と信金中央金庫がバックアップするかたちでスタートした。
今回参加した町内の事業者は食料品メーカー6社。そこに岩手県内に事務所を置くデザイナー6名が加わり、ヒアリングやワークショップを経て協働が始まった。1社あたりデザイナー1~2名がついて、新商品の開発やパッケージデザインを担当。でき上がった商品を「ユキノチカラ」ブランドのもとに展開する。15年度のラインナップはどぶろくや炊き込みご飯の素、和洋スイーツなど8アイテム。いずれも西和賀の特産素材を生かした商品となっている。
▲「ユキノチカラ」ブランドの第1弾
▲お披露目は今年で5回目となる「復興デザインマルシェ」(東京ミッドタウン)の一角で行われた。来場者の多くが試食をしながら説明を聞いていた。
参加デザイナーのひとりである金谷克己さん(エディションズ)は、「豪雪地域として雪はネガティブに捉えられがちだが、西和賀の最大の魅力でもあると思う。雪があるからこそミネラル豊富な作物やきれいな水が採れる。この町が持っている可能性を最大限に生かす、という想いを込めた」と説明。
金谷さんは盛岡を拠点に数多くの地域ブランディングに関わっている。今回参加したデザイナーたちは県内のイベント「いわてデザインデイ」でも協働しており、チームの連携はとりやすかったようだ。「一方、事業者にとっては同じ岩手県内とはいえ、僕らは”よそ者”。信頼を得るために西和賀に何度も通って話をしました」。予算も時間も限られているため背伸びはせず「こんな商品をつくろうと思っている」「サイズ・価格ともにコンパクトなパッケージをつくりたい」など各事業者がもともと持っていた悩みやアイデアに対して手を入れていった。
▲「西和賀のどぶろく ユキノチカラ」 西和賀産業公社×小笠原一志(ハンドデザイン)
▲「雪のようせい」 雪国のだんご屋団平×岩井澤大(ウィーデザイン)+堀間匠(ドミノデザインワークス)
例えば、「お菓子処たかはし」ではもともと製造していた焼き菓子に西和賀のはちみつやそば粉を練りこんで「金と銀のフィナンシェ」を開発した。金山跡や秀衡街道といった名所やストーリーをデザイナーと共有するうちにアイデアが発展していったそうだ。パッケージデザインもブランドのトーンで統一するというよりは、各商品の個性を優先するなかで雪の雰囲気を醸し出して共通性を見せている。
金谷さんは「ブランドを外に発信したいという思いもあるが、それよりもまず西和賀の人々に、自分たちが暮らしている町が素晴らしいところなんだと再認識してほしい。こうしたお披露目の場でディスプレイやお客さんの反応を見て感じるものがあれば嬉しい」と話した。
▲「金と銀のフィナンシェ」 お菓子処たかはし×木村敦子(kids)
▲マルシェで接客する「お菓子処たかはし」の高橋久美子さん。「皆さんに持ち上げてもらったという感じなので、私たちもやらなきゃと必死でついていきました」。
一方、プロジェクトのバックアップに北上信用金庫と信金中央金庫が入ったというのもポイントだ。日本デザイン振興会の鈴木紗栄さんによると「こうしたマッチング事業では、いいデザイナーやいい技術があるのに資金のマネジメントがうまくいかずに止まってしまうケースが多い。デザインとマネジメントの両面で支援できる仕組みをつくりたかった」という。信用金庫側でも融資だけでなく、地域活性化をサポートするあり方を模索していたところで、もともと持っている資金繰りのアドバイスや販路支援といったサービス機能を生かしてプロジェクトに参加している。「パッケージを変えるだけのプロジェクトではなく、ここからがスタートと考えている。今年度は商品開発、来年度からは具体的な販路を開拓していく」(鈴木さん)。
「ユキノチカラ」ブランドの商品は県内各所や東京のアンテナショップで販売するほか、ふるさと納税の御礼品としても活用されるという。次年度以降もラインナップを増やし、食品だけでなく観光や地域全体のPR、第一次産業の掘り起こしなどにも展開していく予定だ。(文・写真/今村玲子)