DESIGN小石川が発信する新イベント
「HIGHLIGHT」は11月3日まで

今夏、2年限定でオープンした「DESIGN小石川」でデザインイベント「HIGHLIGHT」がスタートした。国内外から19組のデザイナーやスタジオが参加し、新作やプロトタイプのほか、第一線のデザイナーたちによるミニ企画なども用意され、「デザインの楽しさ」を再発見できるような内容だ。

▲ 広いスペースを生かして、19組のデザイナーやアーティスト、メーカーが製品、アート作品、プロトタイプなどを展示している。Photo by Masaki Ogawa


東京のデザインウィークといえば、青山エリアを中心に会場や内容が概ね定着し、製品のショーケースになっている例が多い。一方で、自主制作的なプロジェクトや斬新な提案を目の当たりにする機会が減っている感は否めない。そのなかにあって、DESIGN小石川からその旗ふり役を担おうとする意気込みが感じられた。

DESIGN小石川の運営者であり、本展のキュレーションを務める建築家・芦沢啓治氏は、「インディペンデントなデザインイベントを継続させたい。また、イベントやDESIGN小石川のようなスペースがしっかりと街とリンクしていくことが重要だ」とその狙いを語る。

タイトルの「HIGHTLIGHT」については、「今、ハイライトと呼ぶうべき人たちを集めたこと、このイベントが街にとってもハイライトになるように」との思いを込めた。ちなみに「DESIGN小石川の入居しているビルが、ハイライトというタバコと時を同じくしてできたこともある」とのことだ。

キュレーションでは、芦沢氏自身が「面白い、新しい」と感じるアーティストや、あるいは駆け出しの頃から互いに切磋琢磨してきた同志のような人たちに声をかけた。取り組む領域や表現は異なっても、見据えていることは遠くないので互いの反応は早い。旬や新しさを逃がさないフットワークやスピード感もまた、DESIGN小石川の特徴といえるのかもしれない。

▲ 村越 淳「SO」。通常3Dプリンタで出力すると水平に積層痕が残るが、この作品では同心球状に積層されると仮定した積層痕をモデリングして3Dプリンタで出力。「3Dプリンタの未来を想定」した作品だ

▲ 安藤北斗・林登志也 / we+「Drift」。砂鉄の下で時計の針が回転し、その軌跡によって時を知らせるというインスタレーション。シンプルな構造だからこそ、針の動きや砂上に現れる軌跡に繊細な調整が必要となる

▲ マークスインターナショナルのオリジナルブランド「DUENDE」より、好きな板をはさんでスツールやテーブルなどをつくることができる「PLAYWOOD」などが紹介されている

▲ 国内外のデザイナーや建築家が手がけるモビールのブランド「tempo」。モビールは、空間や素材、重力や時間などへの深い考察が求められ、各デザイナーのアプローチやフィロソフィーが明らかになるような興味深い題材だ

▲ 石巻工房からは、自然派塗料の「mizucolor」(和信化学工業)でペイントされたオリジナル家具がお披露目された。家具はデザイナー、塗装はアーティストが手がけた


海外から招いた出品作は、日本初お目見えのラインナップだ。シンガポールのギャラリーショップでデザインディレクションを行うスーパーママが、初めての個展を開催。ほかにも、スイスのプロダクトデザイナー、ディミトリ・ベレが自ら開発したセラミックの成形や色付けの方法を駆使したプロダクトや、クリストフ・グベランによる自主プロジェクトといえるマテリアル研究の成果など、これまで日本で紹介されていなかった、旬な若手による“エッジの効いた”プロジェクトがずらりと並ぶ。

▲ シンガポールのギャラリーショップ「Supermama」による展示。「VESSELS」シリーズは5人のシンガポール人デザイナーが、日本の磁器メーカー「キハラ」と協働でプロダクトを制作したもの。写真は、テセウス・チャン(THESEUS CHAN)の作品

▲ クリストフ・グベラン(Christophe Guberan)によるマテリアル研究。紙や木などマテリアルごとに研究を進め、最新の「繊維」では、布の上に3Dプリンタで樹脂のラインを描くことで自然に立体を形成するプロセスを紹介。11月7日(月)〜11月27日(日)、グベラン氏の個展「MATERIAL EXPERIMENT(マテリアル・エクスペリメント)」がDESIGN小石川で開催される予定だ

▲ ディミトリ・ベレ(Dimitri Bähler)によるセラミックのプロジェクト。自身の直感と感性に耳を澄ませ、従来の製作技法にとらわれない自由な表現はアート作品のようでもある


ホームセンターはデザイナーの材料置き場!?

また、芦沢氏の呼びかけに応じた11組のデザイナーによる、遊び心の溢れるユニークな企画が併設する。「DOit YOURSELF!」展は、DESIGN小石川の近隣にあるホームセンター「ドイト」で材料を購入し、自由にプロダクトをつくるというもの。材料費は1万円以内と制限を設けたが、でき上がった作品は実にさまざまで、誰もが入手可能なホームセンターの素材とは思えないほどだ。

▲ 「DOit YOURSELF!」展のコーナー。Photo by Masaki Ogawa


MUTEのイトウケンジ氏は、自身のスニーカー・コレクションを整理するための「SNEAKERS BOX」を、藤城成貴氏はタイルカーペットをプラスチックの結束バンドで縫い合わせたラック「CARPET BACKET」をつくった。「ドイトのヘビーユーザー」を自負する芦沢氏は、デッキブラシをコンクリートブロックに突き刺した「DECK BRUSH HANGER」などを製作。純粋に「自分が今ほしいもの」をつくっている点や、予算の使い方など、デザイナーの素顔を垣間見られるようで面白い。

▲ イトウケンジ(MUTE)「SNEAKERS BOX」。ラワン合板と工作料(カット・穴あけ)、KSPCスクリーン54型を使用し、費用は4個分で5,610円。会場でも「ほしい!」という声が

▲ 藤城成貴「CARPET BACKET」。タイルカーペットと結束バンドを用い、費用は2つで2,500円


ほかにもTORAFU ARCHITECTSや長岡 勉氏ら、最前線で活躍する建築家やデザイナーたちが、思わず笑ってしまうようなアイデアを披露している。おおらかで楽しげな雰囲気からは「いつでも誰でもデザイナーなんだ」というメッセージが伝わってきそうだ。

このDOit YOURSELF!は、IFFT/インテリアライフスタイルリビング2016(11月7日〜9日)でも発表する予定で、今後は参加者を増やしながら定期的に発表の場を増やしていくそうだ。(文・写真/今村玲子)

▲ 中央に立つハンガーが、芦沢啓治「DECK BRUSH HANGER」。デッキブラシ部分をカードスタンドに見立てる発想に脱帽。3,500円。その右横に置かれたブロックは、長岡 勉氏による「HALF HALF HALF」。コンクリートブロックをペイントしただけ!なのにいろいろと使えそう。費用は300円

▲ TORAFU ARCHITECTS「CONTAINER WAGON」。収集用コンテナにキャスターを結束バンドで取りつけた、「なぜ今までなかったの?」と言いたくなるような組み合わせ。2,727円



デザインイベント「HIGHLIGHT」

会期:10月28日(金)〜11月3日(木)
   11:00〜19:00(会期中無休)

会場:112-0002 東京都文京区小石川2−5−7 佐佐木ビルB棟2F DESIGN小石川
   http://designkoishikawa.com/highlight2016/

参加作家
Christophe Guberan, Dimitri Bähler, Calvin Ho, 安藤北斗・林登志也 / we+, 村越淳, MUTE, Bob Foundation, Gabriel Tan, 三澤直也, Jean Besson, Fabien Cappello, 二俣公一, TORAFU ARCHITECTS, 田部井美奈, 藤城成貴, DRILL DESIGN, 長岡勉, 山野英之, 芦沢啓治 / Supermama, tempo, DUENDE, 石巻工房



今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。