長野・小布施で灯りの歴史を辿る
「日本のあかり博物館」「枡一客殿」

先日の連休に、長野の小布施へ行ってきました。小布施は栗で有名なところですが、こじんまりとしていながら、整然とした佇まいの風情ある街。まず最初に「日本のあかり博物館」を訪れました。

こちらは縄文・弥生時代から現代までの「灯り」の歴史をたどる博物館。火打石から蝋燭、そして電球とさまざまな道具と様式の灯火具が数多く展示されていました。信州は江戸時代、灯りの原料である菜種油の産地でもあり、灯りに縁のある地として、この博物館が運営されているようです。上の写真は、1階から2階の展示室に向かう階段の様子ですが、壁の白熱光源によるブラケットライトと、まだ日が落ちる前の外光を通した障子とのコンビネーション。照明に携わるひとりとして、改めて灯りの原点と向き合う時間でした。

博物館を後にして、街の中にある喫茶店へ。お味噌屋さんの蔵の敷地内にある、スタンダードジャズが流れる喫茶店。古い建物をセンス良く使っている空間は照明の使い方も心地よく、珈琲がとても美味しく、心が和みました。


この街の印象として、光りのバランスとの付き合い方、灯りに対する繊細さにとてもセンスを感じます。日も暮れ、街並みを外灯が小気味良く照らしているのではなく、店や立ち並ぶ住宅、建物そのものが行燈のように灯具となって街に溶け込んでいるという雰囲気。日本の土地が本来持っている姿のように思いました。

今回の宿泊先は、枡一市村酒造場が運営する、酒蔵をリノベーションした「枡一客殿」。設計はパークハイアットホテルもデザインしたジョン・モーフォード氏。

フロントから客室へは、母屋から離れに行くような外回廊を通って行きます。

客室へのアプローチ。螺旋階段には間接照明が品良く使われています。

客室は落ち着いた内装に、部屋の両サイドの化粧柱にも間接照明とすべて調光機能がついた白熱光源。アルテミデのトロメオもこの空間に美しく。

枡一客殿は小布施の街並みとは全く別世界の、パークハイアットばりな都会的雰囲気。小布施という街には、少しミスマッチで浮いているかのようにも感じました。でも、観光客が街の人口の数倍も訪れるという小布施。そして外国人観光客も多いと聞くと、枡一市村酒造場がつくるこの世界によって、街もセンスを研ぎ澄まし、より素晴らしい街に発展していくのかもしれません。

四季それぞれに絵画のような景色を持つ街の可能性は大きく、そうしたなかで訪れる人々が心地よく過ごせる「灯り」は、街の空気を醸す大切な要素の1つだと思ったのです。(文/マックスレイ 谷田宏江)

この連載コラム「tomosu」では、照明メーカー、マックスレイのデザイン・企画部門の皆さんに、光や灯りを通して、さまざまな話題を提供いただきます。