REPORT | 講演会・ワークショップ
2013.12.12 16:54
普段の生活であまり気にすることはないと思うが、皆さんが毎日歩いている歩道には、実にさまざまな要素が存在している。照明、防護柵、標識、信号、植栽、舗装、細かく挙げていけばまだまだ出てくる。これらの施設は、当然それぞれに機能を持っており、必要があって設置されているのだが、なんだかとてもゴチャゴチャとした印象を受けるのは僕だけだろうか。例えば、照明や標識、信号といった支柱を持った施設は、同じ支柱にまとめてしまえばいいし、同じ金属素材の防護柵だって一体的にすることもできるはず。
そんな日々抱いていた疑問から、今回はテーマを「RECONSTRUCTION~歩道空間コンバージョン」として、太平洋プレコン工業株式会社(舗装ブロック)、株式会社住軽日軽エンジニアリング(防護柵)に、それぞれが専門とする施設の概要を話して頂いた後、 歩道上のさまざまな要素の必要性と歩道のあり方について話し合った。
橋梁用車両用防護柵(手前)と転落防止柵(奥)(写真/株式会社住軽日軽エンジニアリング)
歩道空間の施設の中で、実は本来の機能をあまり知られていないのが防護柵だ。道路空間にはいろいろな種類の柵が設置されているが、多くの人がそのすべてを「ガードレール」と呼んでいる。しかし「ガードレール」は、正式には「車両用防護柵」であり、車両の衝突を想定した強度を持っている柵を言う。そして、車道と歩道の間に設置される細い鋼管で構成された柵は「横断抑止柵」と言い、その目的は横断歩道の無い箇所で歩行者が車道を横断することを防ぐことにある。なので、当然車両の衝突に耐えられる強度は持っていない。この「横断抑止柵」、実は設置しなければいけない明確な基準はない。誤解を恐れずに言えば、歩行者のモラル次第では不要な施設なのだ。また、横断を抑止させる目的を考えれば、必ずしも柵でなくて良いのだが、残念ながら日本ではこの「柵」がお決まりのパターンになっていて、誰も疑問を抱かない。
横断抑止柵と植栽帯がない歩道空間(写真/太平洋プレコン工業株式会社)
それからもう1つ、機能的に絶対必要という訳ではないのが「植栽帯」だ。歩車道境界に連続的に植えられた低木は、環境面、景観面だけでなく、横断抑止柵の代わりとして整備されることも多い。この「植栽帯」のすべてが不要とは言わないが、もともと狭い歩道に「植栽帯」をつくったおかげで、通行できる幅がさらに狭くなり、さらにはそこに自転車が置かれてギリギリひとり通れるかどうかといった場面を目にすると、もっと考えられないものかと思ってしまう。また「並木」と呼ばれる植栽も、狭い歩道にむりやり植えては、枝葉が広がらないようバッサリ切られて幹だけが連続するような光景もよく見られる。そこまでして植えなければいけないものなのか。
剪定された幹だけの並木。左に見える白い柵が横断抑止柵(写真/太平洋プレコン工業株式会社)
そんな要素の整理をしながら、勉強会では歩道に存在するさまざまな施設の必要性と、それに対する価値観について議論となった。議論の中では、横断抑止柵に限らず車両用防護柵の存在までも、海外と比べて不必要にあり過ぎだという意見が挙がった。施設整備の多くは安全に危険を回避する方向に進みがちであるが、個人の危機回避能力と責任の問題が薄れていくことを懸念するという考えだ。これに対し、安全を考える優しさも日本ならではの文化と捉える意見も挙がったのは興味深かった。ただし、文化論だけで現状を肯定しては先に進まない。すべて欧米と同様なことが肯定されがちな風潮は僕も反対だが、ならば文化意識をどう空間に表現するか、といった議論が必要なのだ。
歩道空間の再構成(作図/4FRAMES)
おそらく道路上の施設は、機能と施設がすべて一対一の関係で、それを統合したり別の物に置き換えたりということにまで考えが及んでいないのだ。この話は、単に製品のデザインをどうするかということのみに止まらず、 個々の機能や形を考える以前に、求められる機能を再整理し、すべての施設をシステムとして捉えるべきだと僕は思う。
次回は、最近話題に上ることの多い自転車の駐輪や運転マナーの問題について議論したいと思う。(文/御代田和弘)