英のデザイナーの兄弟がロックダウン
中に始めた、椅子を再解釈する活動
「19 CHAIRS」が進行中

当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。

“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。

この投稿をInstagramで見る

Class of 19 #19chairs #lockdownchair

19 CHAIRS(@19chairs)がシェアした投稿 –

今日のトピック

英国のデザイナー、トムとウイルのバターフィールド兄弟がロックダウン中にいちばん身近で当たり前に使っている椅子の存在を考えなおそうと、椅子を再解釈する活動「19 CHAIRS」を始めました。進行状況は、Instagramで更新しています。

SPREADはこう見る

プロダクトデザイナーである兄のトムさんと、グラフィックデザイナーである弟のウィルさんは、50種を超えるベーシックな椅子の3Dモデルを制作。その中から19種に絞り、27×27mmの角材と40mmのネジを使って実物を組み立てました。その後、制作した19脚の椅子を19人のクリエイターに渡し、高齢者が使用できるように改造を依頼。インテリアデザイナーのトム・ディクソン、グラフィックアーティストのモラグ・マイヤースコーも参加しています。さらにその椅子を販売し、収益の50%を高齢者を支援する慈善団体 Age UKに、残りを半分を人種差別を受けている人々を支援する慈善団体 Resourcing Racial Justice に寄付する計画です。なぜ高齢者向けの椅子にしたのか、その理由ははっきり語られていませんが、今後のプロジェクトの進行で公表されることを期待しています。

実はこの活動を最初に見た時、寄付するのは素晴らしいと思いましたが、椅子のバリエーションをつくることの価値がわかりませんでした。しかし、公式ウェブサイトにはこんな言葉が述べられています。「世界中がステイホームになり、私たちは身の回りにあるものをより身近に感じるようになりました。「19 CHAIRS」は、もっとも質素な家具のひとつである椅子を祝福するためのものです」。これを見て考えてみると、これはあって当たり前だと気にしていなかったものについて考えなおす行為なのだと理解できました。

身近にあるものに対する再認識と聞いて思い出すのは、谷川俊太郎さんの写真絵本「こっぷ」です。もちろんこっぷは飲み物を入れる器ですが、この本の中では、煙やハエを捕まえたり、虹をつくったり、おしゃれをしたりします。コップの用途をさまざまに広げ、既成概念を崩し柔軟に想像力を広げる道案内のような本です。

自分にとって当たり前に使っていて再認識すべきものは何でしょう?グラフィックデザイナーなら文字組み?建築家なら住宅?自粛期間はいずれのクリエイターにとっても、自身のクリエイションの源を見直す良い機会になったのかもしれませんね。End

Tom Butterfield
ロンドンを拠点とするインテリア、プロダクトデザイナー。ユニークかつエキサイティングな発想を心がけている。

Will Butterfield
ロンドンを拠点とするグラフィックデザイナー。遊び心のあるアートディレクションを重要としている。

▲本プロジェクトをレーダーチャードで示しました。6つの属性のうち、成果物のデザイン性を「Creativity」で評価しています。「Pure & Bold」は目的に対して一途な強さを感じるか、やりきっているかという、SPREADが自らの仕事において大切にしている視点です。