INTERVIEW | コンペ情報
2011.05.18 15:33
未曾有の大震災を体験した今、大きな転換を余儀なくされつつあるわれわれ日本人の価値観。そうしたなか、改めてデザインの意義が問われている。被災地とその復興に対して何ができるのか?と同時に、震災以降の日本人の生活と社会に対してデザインがいかなるクオリティを提示できるのか? 5月18日より応募受付が始まった「2011 年度グッドデザイン賞」では審査やグッドデザインエキスポなどのイベントを通してどのような視点が提示されていくのかに注目が集まる。日本産業デザイン振興会常務理事の青木史郎氏に聞いた。
——東日本大震災を受けて、今年のグッドデザイン賞はどのように変わるのでしょうか。
今回の震災を受けて、審査委員や企業のデザイナーたちと話し合いを重ねてきましたが、明確に言えることは、もはや“今まで”には戻れないということだと感じています。大きく価値観が変わった。変わらざるを得なくなった。価値観の変化によって、デザインの良い悪いの判断基準も変わってくるはずです。つまり、今まではこれでよかったけれど、もはやこんなことはできない、こういうものは評価できないということが明確になってきた。今年度のグッドデザイン賞の審査においてもそういった議論が展開されるのは間違いないでしょう。でも、そこで非常に危険なのは、すべてが否定形となることです。あまりにもストイックになってしまって、これは要らない、あれは駄目と引き算ばかりして、機能さえあればいいだろうというような考え方に陥ってしまうことです。これは何も製品に限ったことではなく、社会や生活にも言えることだと思います。
言い換えると、今年の審査委員長メッセージで深澤直人さんが語っているように、「電気を消せばいい」ということではない。ただ暗いのではなくて、適正な暗さであって、それが美しくかつ豊かさにつながらなければいけないと述べています。その部分をデザインがやらなければいけないと思うのです。
2010年度表彰式より。
——震災後、日本のデザインというものが変わっていくと?
震災後のジャパンデザインとは何か。もちろんまだわかってはいないし、誰も言葉では言い表せません。しかし、デザインとは、あれは駄目、これは駄目というギスギスした話ではなくて、ある意味、文化的なものに仕上げていくことだと思います。“過剰”は認められないけれど、良い意味での“余剰”を楽しむのがデザインのはず。そういった意味では、次に来る新しい豊かなジャパンクオリティとは何かを皆で話し合っていく、グッドデザイン賞はそういった場になればいいと思っています。いわば新しい価値と概念を発見しビジュアライズしていくプラットフォームですね。
また、今回は応募用紙にアンケートを付けました。「今回の震災であなたはどのようなことを考えましたか、あなたの製品やデザインにどのような影響を与えましたか」というようなことを書いてもらうようにしています。もちろん震災を受けて、デザインが急に変更になるという例はそんなにはないとは思いますが、人々の意識は確実に変化していていますし、今後のデザインにとっては重要なことだと思いますから。
ーー震災後の復興支援ということでは、特別措置として、東北6県(青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県)と茨城県に本社を置く応募者からの応募については、応募要領に定めるすべての費用が免除されています。
われわれにできるのは産業支援でしょう。産業再生のお手伝いをすることで、それが雇用の促進やコミュニティの支援につながっていくのではないかと考えています。今回の無料化はあくまでもその第一歩。被災した生産設備への融資というような話はすでにたくさんあると思いますが、われわれとしては被災地のものづくりやデザインに携わっている方々に焦点を当てることで、新たな関係づくりとビジネスチャンスの獲得につなげていただければと考えています。
今年も8月にグッドデザインエキスポを開催する予定ですが、例えば、そこで被災地の企業やデザイナーのアクティビティを紹介したり、さらには企業に限らずコミュニティや地域団体とデザイナーとのマッチングということもできるはずです。ただし、これは何年も続けていく必要があると思いますし、今年と来年、再来年では事情も状況も違ってくるはず。そうしたなかでグッドデザイン賞という装置を使って、より“具体的なビジネス支援”に取り組んでいきたいと考えています。
グッドデザインエキスポは今年も8月に開催予定。
——今年度から、ロングライフデザイン賞とフロンティアデザイン賞が公募ではなくユーザーやデザイナーからの推薦にもとづく贈賞制となります。
ロングライフデザイン賞は、商品の長寿命化を図ったデザインを表彰する主旨で生まれたので、贈賞がふさわしいと考えました。商品としての寿命が長いものであれば、すでに市場からのそれなりの評価を受けていると言えるはずだから、公募ではなくて、こちらから積極的に評価、贈賞していくべきではないかと。
フロンティアデザイン賞は、最終製品ではなく、革新的な素材や技術、社会システム、社会基盤を表彰しようというもの。それらにデザインが関わることで、暮らしや社会を豊かにしていく源泉となるものです。デザイナーがそれらの技術を見て、エンジニアとは違った観点で、「こんなふうに使えるのではないか」「あれに応用できるのではないか」というような、わくわくできるものが集まればと期待しています。
——デザインが関わることで未来が描けるようなものですね。
そうです。もはやデザインは未来を描けないという意見もありますが、先端的な技術などとデザインが結びついていくことで、未来を語ることができるはずだという想いがあります。そういう意味で、グッドデザイン賞は、他分野の新たなプレイヤーに加わってもらいながら、デザインの領域的な広がりを追求するプラットフォームでもありたいと考えています。
2011年度グッドデザイン賞は5月18日より7月4日まで応募受付中。(*終了)