商品化への道のり
「新興グランド社」【前編】

都内の中小企業とデザイナーとのマッチングを目的に、東京都が主催する「東京ビジネスデザインアワード」。高い技術力をもつ企業と優れた課題解決力・提案力をもつデザイナーとが協働することで、新たなビジネスの創出を目指す事業提案コンペティションだ。昨年度のアワードでマッチングが実現したのは12件。ここではそのうちの1つ、新興グランド社とデザイナーの津留礼子氏、津留敬文氏によるユニット、MEDIUMとの協働から立ち上がった事業プロジェクト「twinkle piece」を紹介する。

点字印刷をどうにかして点字印刷以外のものに発展させたい!
東京北区に本社を置く新興グランド社は様々な素材に厚盛印刷ができるスクリーン印刷の特殊加工を売りとする。中でも、UVクリア樹脂を水滴のように紙の上に付着させた点字印刷は評判が高い。このような特殊印刷で培われてきた樹脂の「厚盛り」とよばれる技術は通常の点字印刷に用いられるエンボス加工に比べて点字の崩れが少ないのが大きな利点。加えてスクリーン印刷では紙の上に樹脂を落とすため、裏面への影響がなく両面印刷が可能。同じ面積でもエンボス加工の2倍の情報量をプリントできることになる。新興グランド社としては、点字印刷の社会的重要性を認識しながらも、会社の将来を考えると同技術の新規分野への応用が望まれていた。

▲左からデザイナーの津留 敬文氏、津留 礼子氏(MEDIUM)、新興グランド社 宮坂 一朗社長

▲見本市 DESIGN TOKYO にて発表する「twinkle piece」

▲疑似ラインストーン印刷を施した一枚の紙が一定の法則でつながることでユーザーに創造の自由が与えられている。

あるとき、宮坂 一朗社長は点字印刷したドットがレンズ効果によってラインストーンのようにも見えることを発見。宮坂氏は点字印刷で培った「厚盛り」技術と箔押し加工技術を組み合わせて疑似ラインストーン印刷技術を開発した。その後、社内のアイデアからラインストーン調の印刷を装飾的にあしらった名刺やボディ用ジュエリーシールなどいくつかの製品が誕生している。「それでも、ずっとこの技術で作り続けてきた当社の人間の中からは印刷の枠を超えたアイデアが出てこないんです。どうにかして点字印刷から発展させたかった」と宮坂社長は明かす。ブレークスルーを求めて東京ビジネスデザインアワードに応募した。(取材・文/ 長谷川香苗)

▲これまでの新興グランド社の製品。UVクリア樹脂の厚盛技術による点字印刷

▲点字印刷の技術を活用した疑似ラインストーン印刷

Photo by Kaori Nishida

後編に続く

twinkle piece 公式ウェブサイトはこちら

東京ビジネスデザインアワードのホームページはこちら