コクヨデザインアワード2016最終審査レポート 求められたのは
「考え方」のデザイン

11月30日、コクヨデザインアワード2016の最終審査(プレゼンによる審査)が行われ、グランプリ1点、優秀賞3点が発表された。今年は国内外から1307件の応募があり、1次審査を通過した10件の作品が最終審査の対象となった。コクヨが主催する同アワードは今年で14回目。その特徴は商品化を目的としたアワードであるということ。受賞作から検討され、これまでにも「カドケシ」(2002年佳作)「ビートルティップ」(2007年優秀賞)「和ごむ」(2013年優秀賞)といったヒット商品を生み出してきた。

今年のテーマは「HOW TO LIVE」。モノが溢れている現代に本当に必要なものは何なのかを問い、日々の生活や生き方にまで及ぶような新しい「考え方」を求めた。6年にわたって審査員を務めている田川欣哉氏は「もはや禅問答に近いテーマ。応募する人は悩むだろうなと思ったし、実際、審査も苦労しました。そのためか、最終審査に残った作品が醸し出している濃厚な雰囲気はここ数年とは明らかに違っていました」と印象を語る。

満票を得て決定したダントツのグランプリ

そんな今回、見事にグランプリを勝ち取ったのは「素材としての文房具」(AATISMO/中森大樹、海老塚啓太)だ。鉛筆、定規、消しゴムを長い棒状に伸ばし、さまざまな使い方ができる部材として提案。作者の中森大樹さんは「人間と道具の関係性を見直しました」と説明する。「昔は木の枝など身の回りに転がっている素材が道具になった。今や身の回りにモノがたくさんある時代。そこで、もしも道具が素材になったらどんな使い方ができるだろうかと考えてみました」。

グランプリ「素材としての文房具」。
鉛筆(直径8ミリ)、消しゴム(1辺12ミリ)、定規(1辺15ミリ)を90センチに伸ばした。好きな長さにカットして、自由な使い方ができる。

審議では満票を得てグランプリに決まった。「文具の基本を押さえたうえで、その先に何があるかという問いかけが作品になっている」(鈴木康広氏)、「どうやってカットするのか、商品化できるのかといった疑問を差し置いても、今回のアワードの答えとして素晴らしい」(佐藤可士和氏)、など、5人の審査員からは絶賛のコメントが寄せられた。

グランプリ受賞者のふたり、中森大樹さん(左)と海老塚啓太さん

テーマに対する真摯な回答を評価

続く優秀作品として、「ぴったりカット」「どうぐのきねんび」「マンガムテープ」が選ばれた。これらは最終審査でほぼ同等の票数を獲得。いずれもプロダクトとしてはシンプルなアイデアながら、テーマ「HOW TO LIVE」への回答として成立していることが評価された。鈴木氏は「優秀賞作品はいずれも“デザインしていない”提案ばかり。今年のテーマはデザインの手前にある考え方を問いかけているので、真面目にデザインを勉強している人ほど難しかったかもしれない。身近な人や生活に目を向けられた人ほどうまくいったのでは」と語った。

優秀賞「ぴったりカット」(Kujira/石川菜々絵、前田耕平)。
親指に取り付けるテープカッター。気持ちよくテープが切れる感触に、審査員からも「ほしい」との声が多かった作品。「指先が進化したかのよう」というコメントとともに、人間と一体化するプロダクトの可能性にまで話は及んだ。

優秀賞「どうぐのきねんび」(阿部泰成)。昔のスナップ写真に印字された日付から発想し、自分の持ちものに使い始めた日付を入れるスタンプ。審査員たちも自らのスマホカバーに押印し、「押したら愛着が湧いてきた」と話した。

優秀賞「マンガムテープ」(南 和宏)。
漫画の吹き出しや効果線を印刷したガムテープ。実際に作者がこれを使って両親に荷物を送るなど、「気持ちを送るデザイン」を伝えるプレゼンも高評価につながった。

身近な生活を少し変えるアイデアの数々

一方、入賞には至らなかったものの、テーマについて深く考えた上で自ら課題を設定し、それに対する明快な回答を提示した作品が目立った。

「FOGGY BOOK」(阿部泰成)
煩雑な印象になりがちな本棚の「景色」を変えるため、半透明グラデーションを施したブックカバーを提案。阿部さんは、優秀賞「どうぐのきねんび」の作者でもある。

「カタチをなくしたぬりえ」(市川直人+河野吉博)。
モチーフの輪郭をドットの集合体によってボケさせたぬりえ。ボケた輪郭が子どもの想像力を掻き立て、独自の視点を育てるという。「自由帳とぬりえのあいだのバランスをとることに気をつけた」と作者。

「窓のあるノート」(府川大吾と国分綾乃)
煩雑になりがちな付箋を整理するため、ノートの上部を打ち抜いて付箋のための「窓」をつけた。付箋を窓のなかに貼れば、ノートの枠から飛び出すことがない。

商品化の進捗も発表

授賞式では、近年の受賞作品の商品化に関する進捗状況が発表された。そのうち2013年に優秀賞を受賞した「Stoop」は、12月20日に内之浦宇宙観測所から発射されるロケット「イプシロン」の見学会場(鹿児島県肝付町)において、JAXA商品化許諾品として限定500個が販売されることが決定した。イプシロンのイメージカラーである鮮やかな色の「Stoop」がデビュー(Stoop<イプシロン・バージョン>、トートバッグ付きで税込み3500円)。表彰会場では先行して予約販売が行われ、来場者が座り心地などを確かめていた。(取材・文/今村玲子)

黒田英邦社長よりJAXA商品化許諾品「Stoop<イプシロン・バージョン>」が発表された。

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