商品化への道のり
「ラ・ルース その後」【後編】

前編はこちら

東京ビジネスデザインアワードの優秀賞を2013年に受賞後、新事業として「ひきよせ」ブランドを立ち上げたラ・ルース。ブランドディレクターの山田佳一朗氏とともに、14年のインテリア・ライフスタイル展への出展を足掛かりに、着実にブランドの認知向上を図ってきた。その後の展開を取材した。

2014年11月には小田原駅直結のショッピングモール、HaRuNe小田原内にそば屋「きみのそば」をオープンし、「ひきよせ」の器でそばを提供している。ここは「『ひきよせ』ブランドの実用性を試すための実験場です」と相田社長。業務用食器という使用頻度も高く、扱いも乱暴になりがちな環境で使ってみて「ひきよせ」の特殊な接着面が欠けたりしなければ、一般家庭での使用は問題ないというわけだ。厨房からは店内の様子が一望できる。

相田社長は「私やラ・ルースの社員も厨房に立ってそばを打ち、お客さまにお出ししています」と言う。「誰も飲食のプロではありませんが、そばをつくって、食べてもらう現場を体験すると、ラ・ルースの工場で1日座っているだけではわからないことがたくさん見えてきます。器をつくって終わりではなくて、どう使ってもらえるか、こうしたそば屋をプラットフォームにして提案していくことができます。そして、そばを食べることが目的で来たお客様でも器が気に入ったら買い求めていただけるように、隣りにショップもつくりました」。

▲「ひきよせ」の強度を実験する場、そして使い方を提案する場としての「きみのそば」。ものづくりを行うメーカーによる耐久性試験のための飲食店は新しいビジネスモデルにもなるかもしれない。

カウンター、テーブル、スツールはすべて小田原産の間伐材を使用。施工はラ・ルースの社員、小田原木工組合の職員、小田原城の左官職人といったラ・ルースとつながりのある人たちが手づくりで仕上げた。「ラ・ルースの社員だけでなく、小田原の木工産業に関わるみんなに『ひきよせ』を自分たちのこととして考えてもらいたかったんです」。

▲木を輪切りにした断面がそのままざるそばの器に。辺材が割れないラ・ルースの特殊技術に驚く。これは「ひきよせ」技術を使ったものではなく、商品化はされていないが、耐久性が実証されれば、商品化も。

ものづくりを成功させるうえで、商品をつくるメーカーだけでなく、川上から川下まで巻き込んで小田原のブランドとして愛着を持ってもらうこのような仕組みが重要な気がした。(取材・文/ 長谷川香苗、写真/ 西田香織)

東京ビジネスデザインアワードのホームページはこちら