筆者は、AXIS誌の次号特集「最新の撮像デバイスとそれらが生み出す新たなビジュアル表現」で、概論とまとめの原稿を担当した。そのなかでも触れているのだが、今、汎用のコンパクトデジタルカメラ製品は、高機能化するスマートフォンなどに押されて危機的な状況にある。数字を挙げるならば、2014年全体の販売台数は、4年前の実に7割減になると予想されているほどだ。
そのため、特に家電系のカメラメーカーは、「ゴープロ(GoPro)」などが開拓したウェアラブルなスポーツ&アクションカメラ市場に活路を見出そうとしているが、今後は、そのように従来とは異なる発想で、特定分野に特化した製品開発が求められていくものと思われる。
特集記事では、リコーの「シータ(THETA)」に代表されるような360度の全天球カメラ機能が一般化することを予測しているが、ほかにもっとニッチな市場に絞り込んだ製品も登場してくるだろう。
例えば、米国では1年半ほど前から「ストライク・カム」(199ドル)という釣り人専用カメラが販売されている。これは、外装デザインもウェブサイトも今ひとつ垢抜けていないものの、機能面では他に類を見ないユニークさを誇る製品だ。というのは、ストライク・カムは釣り糸の先端近く、ルアーなどの少し手前に取り付けて、喰いついてくる魚の姿を動画で記録するためのカメラなのである。
仕様は、解像度が736×480ピクセルで10m防水と、少々時代遅れにも感じられる。しかし、それでも構わないのは、美しい画像を残すことが目的ではないためだ(いずれにしても、釣り場の水は必ずしも澄んでいるとは限らず、公開されている撮影サンプルもほとんど濁っている)。
では、何のためのカメラなのかといえば、これは魚やルアーの種類によって変わる喰いつきの様子を観察・分析して、釣りの戦術を変え、釣果を向上させるためのツールだ。実際に、ストライク・カムの愛用者であるルアー・フィッシングのプロがインタビューでコメントしているが、これまでは勘に頼っていた魚との駆け引きを、実際に目の当たりにできるので、同じルアーを使い続けるか、それともルアーを変えて様子を見るかといった判断が付けやすくなり、それが実際の成果にもつながっているようだ。
ストライク・カムは、現状では映像のリアルタイムストリーミングができないため、いったん引き上げてからUSBケーブルでデータを転送する必要がある。また、画角的には横長のランドスケープよりも縦長のポートレートスタイルのほうが、魚の動きを捉えやすいように感じられる。そのあたりに改良の余地が残されており、全世界の釣り人人口を考えると、今からで参入する余地も十分あるように思えるのだが、いかがだろうか?
大谷和利/テクノロジーライター、東京・原宿にあるセレクトショップ「AssistOn」のアドバイザーであり、自称路上写真家。デザイン、電子機器、自転車、写真に関する執筆のほか、商品企画のコンサルティングも行う。著書は『iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』『43のキーワードで読み解く ジョブズ流仕事術:意外とマネできる!ビジネス極意』(以上、アスキー新書)、『Macintosh名機図鑑』『iPhoneカメラ200%活用術』(以上、エイ出版社)、『iPhoneカメラライフ』(BNN新社)、『iBooks Author 制作ハンドブック』(共著、インプレスジャパン)など。最新刊に『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社)がある。