Photo:Denmark Media Center / Photographer Kim Wyon
共生型社会システムのインフラに共生デザインが適用できる領域について説明してみたい。図1は都市の構成要素を階層別に示したものである。下部から政府・地方行政、スマートグリッドなどのエネルギーインフラ、交通システムと続き、最上位層は教育や生活、文化などの市民生活となる。各階層に共生デザインの視点を記してみた。
従来の都市設計との違いは、「成長」「産業振興」「経済効率」から「環境」「調和」「市民」「幸福度」が中心になっていることだ。もちろん、過去の都市デザインが環境や自然を軽視していたわけではないが、少なくとも80年代までは、どちらかと言うと経済成長、産業育成に軸足を置いた社会インフラが主流であったと思う。新幹線の駅舎がどこでも同じであり、地方に出掛けても関東郊外の風景と変わらない印象を受けるのは経済効率に基づく均一性を追求した結果だと思う。
そして、第4回でも紹介したとおり、将来的にすべての社会インフラにICT(情報通信技術)が組み込まれていくことになる。従来までは都市設計は都市開発事業として行政が中心となり、建築家やコンサルタントと連携して設計やデザインが行われてきた。しかし、近年の世界的な都市化の進展、環境エネルギー問題、自然災害に加えて、CPS・IT融合、ソーシャルメディア、ビッグデータなど新たな技術、ソリューションの普及により、複合的な問題解決、ICTの適切な導入と運用などで、従来までのアプローチでは解決できない事例が増えてきている。
例えば、現在メディアを賑わしているビッグデータであるが、昨年JR東日本がICカード・Suicaの情報販売を中止した騒動などは、今後社会システムを構築する場合、通常のシステムデザインに加えて個人情報の管理などユーザーの視点に立ったデザインが不可欠になっていることを意味している。理想的にはICT、SNS、ビッグデータを理解し、環境やエネルギー問題の本質を捉えながら政策を立案し、かつ都市設計、都市デザインができる建築家やデザイナーがいれば良いのだが、そんな全能的な人材はいるわけはなく、また、たとえそうした優れたデザイナーがいたとしても、むしろ限られた特定の人材に依存するのはリスクがあるだろう。そうなると、複数の利害関係者が連携して社会システムを構築するのが最善であり、異なる分野の専門家をまとめながら、全体最適型のデザインを行う社会システムデザイナーのような職種が近いうちに求められる時代が来ると考えている。
この場合、社会システムデザイナーの役割は、プロジェクトの関係者をまとめ、皆で共有した価値観に基づいて課題を解決し、そのためのリソースを確保する。そして、ホリスティックなバランスを保ちながら最適なシステムを構築することになる。さらに大切なことは、トップダウンからのアプローチだけではなくボトムアップ、ユーザー中心とも言われるが、都市で生活する市民の視点を大切にすることだ。前述のSuicaの事例でも、ビッグデータを新しいビジネスに生かすことが優先され、ユーザーの立場が少し軽視されていたのではないだろうか? もしユーザーを巻き込んだかたちで、議論されていたならばもう少し違った展開になったのではないかと思う。デンマークでは、現在スマートシティの議論とその具体的な実証プロジェクトが進展しつつあるが、日本や他の国では見られない特徴として、前述の共生デザイン的?アプローチをシステム設計の段階から導入していることがある。
具体的には、デザインを課題解決の方法論として活用し、ビッグデータやITS(高度道路交通システム)、そしてヘルスケアの基本設計で活かしている。また、デンマークで伝統的なユーザー・ドリブン・イノベーション(利用者が主導する革新)の方法論により、新しいソリューションやシステムが行政や業者の理論だけで開発されないように、必ず利用者の意見が反映される仕組みを導入している。市民の満足度が高いのはこうした取組みが着実に浸透していることに関係していると思う。(文/中島健祐、デンマーク大使館 投資部門 部門長)
中島健祐/通信会社、コンサルティング会社を経てデンマーク大使館インベスト・イン・デンマークに参画。従来までのビジネスマッチングを中心とした投資支援から、プロジェクトベースによるコンサルティング支援、特にイノベーションを軸にした顧客の事業戦略、成長戦略、市場参入戦略等を支援する活動を展開している。デンマーク大使館のホームページはこちら。