REPORT | 講演会・ワークショップ
2014.02.18 17:06
最近、テレビや新聞で取り上げられることの多い自転車の問題。ここには、交通事故につながる運転者のマナーや人の通行を妨げる違法駐輪など、さまざまな問題が存在している。日本人にとっては街中の道路を自由に走行できる便利な乗り物である自転車だが、この問題については、道路の空間や施設の問題ばかりでなく、利用者のモラルやそもそもの交通ルールの認知度という使い手側の意識・認識にも原因がありそうだ。
1月31日に開催した「デザインのあしもと」の第3回は「CONFLICT〜ザ・自転車問題」をテーマとし、自転車問題に詳しい徳島大学の山中英生教授を招いて、自転車に関わる環境の現状と課題についてお話し頂き、その後会場との意見交換を行なった。
止めさせたくない沿道店舗と止めたい自転車利用者のせめぎ合い。このせいで歩道の幅は1/3に。(東京都練馬区)
はじめに、山中教授のプレゼンテーションでは、海外と日本の自転車文化(距離、速度、利用者意識等)の比較、日本の自転車関連施策(自転車道、シェアサイクル等)の現状を中心にお話し頂いた。まず興味を惹かれたのは、海外と日本の利用者意識の違いだ。欧米では自転車利用者の意識が高いことから、周囲からも「サイクリスト」と呼ばれリスペクトされる存在であるのに対し、日本では無秩序で自分勝手な使い方をする利用者が多いという。そして日本では、高齢者の移動手段の中心だったり、子供を乗せる母親が多く走ったり、年齢層から乗り方まで実にさまざまであることも特徴だ。こうした日本人特有の価値観の多様性と実用主義が、「サイクリスト」という固定的なイメージに結びつかない理由だろうか。実際に街を見ても、スタイルよりもツールとしての実用性を優先し、かつ合理性を望んでいる利用者が圧倒的に多いように感じる。このような意識がさまざまな自転車問題の根底にあることは、まず明確に認識すべきことだろう。
こうした利用者意識を正しい方向に導くのが「教育」なのだが、日本では小学生を対象に講習会を実施する程度なのが現状で、これについて山中教授は「小学生から高校生までを対象に、自転車だけでなく歩き方や公共交通の使い方なども含めた『交通教育』が大切」と考えている。また、このルールを理解してもらい浸透させるためには、これを伝える情報デザインも重要であるという。最近では線や色で表現する自転車通行帯も多く見るが、その意味を利用者が理解していなければ意味をなさない。教えることも必要であるが、「知らなくても気付かせる」ということも伝えるためのデザインとして考える必要がある。
ロンドンの自転車レーンのサインとシェアサイクル 写真/山中英生
ボルドーの自転車レーン(写真:山中英生)
次に道路や自転車のデザインに関わる物理的な対応策の問題だ。自転車レーンについては、必要性の高い道路において、色や線、マークで明示し、歩道、車道から明確に区分する動きが進んでいる。これについては、前述したとおりルールや周知と一体的に考えるべき問題である。そしてもう1つが駐輪問題だ。これは連載「モラルの土木」でも述べたように、利用者には「できるだけ迷惑にならないようにしよう」という気持ちがあるということを忘れてはならない。ここで参加者のひとりが、以前、自身が設計した道路で植栽帯をなくし自転車を置けるようにしたところ、皆がきれいに止めて特に問題も起きなかったという実例を紹介してくれた。もちろん止めさせることばかりが良いということではないが、局所的な問題ではなく、街全体に関わる問題のバランスを見ながら対応策を講じることが大切であり、うまく誘導さえすれば利用者もマナーを守って使ってくれるのである。
最後に自転車のデザインであるが、このポイントは、特に止めているときの姿という視点からのアプローチにあると感じている。道路側の目線で言えば、大きさや形のバラつきをある程度揃え、ある基本モジュールに納まるようなデザインにすることで、道路側が用意すべき空間や施設を考えやすくなる。現実的には、用途に応じて自転車の形も大きさもさまざまであるため、全てを統一するということは難しいが、例えばシェアサイクルのような移動という機能に特化したシステムとしてならば、こうした考えからのアプローチも可能ではないだろうか。
自転車レーンの表示(大阪府高槻市) 写真/山中英生
今回の議論を終えて感じたことは、それぞれの問題の解決策はもとより、乗り方や止め方、自転車そのもののあり方、あるいは歩いているときの自転車への対応など、自転車にまつわる文化・環境をどう捉えるか、ということに共通の認識を持つことが大切であるということだ。このためには、ルールを教える教育だけでなく、マナーを誘導し自転車文化に対する意識を高める「イメージ戦略」も大切であると感じた。また、この問題は自転車単体で捉えず、人同士のコミュニケーションという視点で、根本的な解決策を考えていくべきではないだろうか。
次回は、急速に進化する自動車関連の技術について、ITS(高度道路交通システム)と未来のカーデザインをテーマに道路とクルマの接点について考えてみたい。文/御代田和弘)