Photo by Denmark Media Center/ Michael Damsgaard
共生デザインが最も必要とされる領域、それは共生(ともいき)が求められている社会システムが挙げられると思う。共生型社会システムのインフラとは、第4回のコラムでも説明した通り、単に技術開発や産業強化という視点だけではなく、そこで生活する人々の幸福や自然、他社会との共生を通じて社会の進化発展に貢献するインフラということになる。
社会システムと言えば、最近はスマートシティが話題となっている。スマートグリッド、スマートフォン、スマートハウスなど何でも「スマート」を付け、先進的で賢いシステムであるように喧伝しているが、筆者は本当にスマートなソリューションが最適なのか疑問に思う。実際、欧米で展開されているスマートシティは、ほとんどがエネルギー、水・環境、交通など都市の基盤インフラの議論であり、市民が中心となった議論にはなっていない。つまり都市の基盤インフラをICTなどのソリューションで効率化するという技術主導、産業主導の展開となっている。
一方で都市の主役はそこで生活している市民である。スマートシティの本来の目的とは、今後世界的に都市化が予想される中で、技術を活用して資源の効率化、最適化を図り、市民の幸福度を向上しながら環境に配慮した持続的成長を実現することであろう。その意味で本当のスマートシティとは、共生の精神が組み込まれたものでなければならないと思う。デンマークの場合はもともと人間中心の発想が根付いていることもあり、自然とこうした視点が考慮されているが、国内で紹介されているスマートシティの構想やその推進体制を調べてみると多くの場合、政府、官公庁、大学、IT企業、ハウスメーカーが主体であり「市民」、「デザイナー」をステークホルダー(利害関係者)の構成要員として挙げている事例は極めて稀である。
スマートシティの理念、目的、現状(デンマーク型と一般型との比較)
デンマークでもまだ体系的にデザインがスマートシティに組み込まれているわけではないが、さまざまな実証プロジェクトでデザイナーが参画するアプローチが採られ始めている。また、デンマークではもちろん共生(ともいき)デザインなどという呼び方はされていないが、デザイン手法の中に人間主導、ユーザー中心の問題解決、倫理の視点が入っており、その本質は共生デザインと同じである。
さらに重要なことは、デザインは単に都市設計や建築のレベルに留まらず、スマートシティの全体設計から、教育、医療、福祉システム、ITS(高度道路交通システム)やスマートグリッドなど個別のソリューションにも応用され、そしてそれぞれのソリューションで利用される機器や端末にまで及んでいることだ。つまり製品の個別デザインだけでなく、社会システムにホリスティック(全体的・包括的)なアプローチが採られている。コペンハーゲンやオーフスなどデンマークの都市を訪れたことがある方であれば感じることが出来る、高いレベルでの調和やリラックス感というのもこうしたデザイン手法が社会システム全体に浸透していることに関係していると思う。
デンマークにおけるデザインとスマートシティの関係
日本ではスマートシティのデザインは、地方自治体やIT企業、コンサルティング会社などが中心となって行われている段階であるが、デンマークのように設計や意思決定のプロセスにデザイナーが関わっていることはまだ少ないと思われる。そしてデザイナーがメンバーに入っていたとしても地域の文化、風土、歴史、自然を考慮し、市民、社会学者、文化人類学者、更には芸術家などと連携してプロジェクトを推進することは皆無であると思われる。その意味でデンマークのデザイナーはデザイン力に加えて深いレベルでの教養と経験が必要になるのである。(文/中島健祐、デンマーク大使館 投資部門 部門長)
本連載を執筆いただいている中島健祐氏が、12月4日(水)グランフロント大阪、ナレッジキャピタル タワーC棟7階の大阪イノベーションハブ(OIH)において講演を行います。内容は、①デンマークの概要とスマートシティ戦略 ②コペンハーゲン市のスマートシティ取組事例について。詳細・お申し込みはこちらから。
中島健祐/通信会社、コンサルティング会社を経てデンマーク大使館インベスト・イン・デンマークに参画。従来までのビジネスマッチングを中心とした投資支援から、プロジェクトベースによるコンサルティング支援、特にイノベーションを軸にした顧客の事業戦略、成長戦略、市場参入戦略等を支援する活動を展開している。デンマーク大使館のホームページはこちら。