Final Homeのデザイナー津村耕佑氏インタビュー
「Freshに生きる」

武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科の「空間メディア論」にAXIS編集長の石橋勝利が参加。学生有志の皆さんが、第一線で活躍するプロのデザイナーでもある教授の方々にインタビューし、その内容をインタビュー記事として編集するというワークショップを行いました。この連載では、3回にわたって、それらインタビュー記事をお届けします。第1回は津村耕佑氏です。

津村耕佑氏インタビュー「Freshに 生きる」
Final Homeのデザイナー・ディレクターであり、武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科教授の津村耕佑さんにインタビューした。さまざまな面から津村先生がどういう人間かを紐解いていく。

津村先生×美大生

先生はデザイナーであるかたわら、美大の教授であるわけですが、美大生について何か思うところはありますか?

美大生というのは造形表現が主。ものをつくり描き、それを教授に評価してもらう。昔はこれでよかった。なぜなら、造形をすることで社会へ抵抗する人、彫刻をつくって世界を変えてやろうというような人たちが美大に集まっていたし、またメディアとして造形が大きな主張となって受け入れられていた。

現在、これだけモノの溢れた時代に、まだモノをつくっているだけで本当に良いのだろうか? 美大を卒業して世の中に出ると、モノをつくることなんてほとんどない。そうなると、造形作品の評価だけでは足らないのではないかと思う。

では、これからは何をもとに評価をしてゆけば良いと思いますか?

難しいところだけれど、学生自身がちゃんと考えていかなくてはいけない問題だと思う。作品評価ばかり気にせず、学生が主体となって違う表現にチャレンジし、新たな価値を見出していったほうが良い。

教授として学生にどう接していますか?

あまり特別な接し方はしないし、ファッション業界に入るための必要なスキルを教えることもない。知識を教えるだけの教育は過去の継承であり、保険にしかならない。新しいアイデアが常に重要だと思う。

今の社会には情報が溢れていて、美術界やファッション業界は飽和状態になっていると思う。そういった中で、問題がどこにあるのか、問題意識をどこに持つのか、その状態をどういうふうにフレッシュにしていくかを話している。

津村先生×子供と美術

先日、六本木で梱包材のプチプチを使ったワークショップを子供たちと行ったそうですが、それにはどのような思いがあったのでしょうか?

今は小学校での図工の授業が減っている。しかし、本来ものづくり、美術のスキルの1つである想像力は必要なものだと思う。そのためには、方法を変えて美術や芸術を日常生活に取り入れていかなくてはならないと思う。極端なことを言うと、数学も芸術に含めて考えるといった具合に、芸術の要素を他分野に散りばめていかなくてはいけない。

ワークショップで梱包材のプチプチを使った意図について教えてください。

最近の子供たちは、大人の勝手な都合から手のひらサイズの造形ばかりを繰り返している。本当はもっと大きな造形力を養っていかなくてはならないと思う。しかし、経験の浅い子供たちに、木や石などの素材を与えたら、どう扱っていいのかわからなくて、拒絶反応を起こすかもしれない。そこで身近なプチプチなら軽くて扱いやすいと思った。さらにそれをパズル状にして使いやすくしてみた。すると子供に、ファッションはこうだ、造形はどうだと私が言わなくても、プチプチのパズルを使って、自然に身に着けるものをつくっていった。その様子はとても面白く感じられた。

昔、子供は空き地で基地をつくって遊んでいた。しかし、今は、机の上やパソコンを使っての動作がほとんど。そこで、プチプチというどこにでもある素材を使い、屋外で遊ぶ事と近い感覚で、楽しみながら自然に造形力が身につくワークショップを行ってみたかった。

津村先生×人間

先生は人生において壁にぶつかったことはありますか?

常にぶつかっている。むしろ、壊すための壁をいつも探している。いつも超えるべき壁を意識している。仕事をこなしているだけでは惰性に流されてしまう。

クリエイティブは、工夫から生まれてくる。作品以外に良いサービスをするなら?と常に考えることも大切。問題を見つけてゆくことがクリエイティブの種であり、問題を美の力を使って解決していくのが美大生であると思う。

先生にとっての不変の美とはなんですか?

矛盾しているかもしれないが、いつも変わり続けているものが美であると捉えている。これは日本人としての性質であると思う。建築物をみると、日本建築は木造なので、災害に弱い。西洋はそれと真逆で壊れにくい。また宗教的にみると、キリスト教圏は不変のもの、唯一の神を信じているが、仏教や神道など八百万の神がいる日本はそういうわけではない。だからこそ、1つのスタイルに捉われない美があると思う。(インタビュー・文・写真/武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科 佐々木 花、南 里穂、大森 唯)

津村耕佑/ファッションデザイナー、「FINALHOME」ディレクター、武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授。究極の家は服であるという考えを具現化した都市型サバイバルウエアー「FINALHOME」を考察する。パリコレクション、ロンドンコレクション、東京コレクションなどのファッションシーンを通過しながら、デザインやアート、建築の分野を越境した活動を展開。第52回装苑賞、第12回毎日ファッション大賞新人賞、第3回織部賞を受賞。
http://www.finalhome.com/