阿部雅世のデザインワークショップ、開催報告 vol.1

11月27日(土)に開催した「阿部雅世のデザインワークショップ 発見力、想像力、創造力ーーDesign Gymnastic A.B.C, Tokyo-AXIS 2010」。天候に恵まれ、また東京・白金の附属自然教育園は紅葉真っ盛りとあって、絶好のワークショップ日和となりました。

当日、集まってくださったのは、京都・静岡といった遠方の方を含めて14名。みなさんプロのデザイナーばかりです。

ワークショップは、自然教育園の講義室で約30分のイントロダクションから始まりました。まずは、自然教育園での思い出やこの森の由来を話しつつ、全体のプログラムを説明。阿部雅世氏考案の「発見力、想像力、創造力」を鍛える「デザイン体操」は、園内の自然のなかからアルファベットのA、B、C……、数字の1、2、3……を探す「searching」によってスタートします。「偶然見つけるのは誰でもできますが、限られた時間内でやるのがプロ」と阿部氏。ステップ2はそれらのアルファベットや数字を発見して写真に収める「discovering」。ステップ3は、撮影した画像を正方形に切り取る「analysis」。そして最後は画像の編集「editing」という流れを、映像を交えて解説しました。

正方形に切り取る「analysis」は、普通のレイアウト作業のように思えますが、日本人は昔からマス目のなかに文字を書くことによって造形力を感覚的に訓練していたと。片やヨーロッパの場合は、バランスの良いアルファベットの書き方がメソッドとして確立されているといったことを話しつつ、それぞれのステップの目的を明らかにしていきます。第三の目であるカメラが捉えた画像を「analysis」することで、ステップ2では気づかなかった新たな発見があるのです。

そして、芸術的なABCを探すこと、アルファベットのA〜Zまで、数字の1〜9までをグループ内で揃えること、画像を反転させてもいいが対象となる植物をいっさい触ってはいけないことなど、ルールを伝達。最後に、「見つからなかったら自分の目が悪いと思ってください」と、参加者の不安をよそに突き放すような言葉で締めくくりました。

それから、14名を4つのグループに分けたのですが、これも阿部式ワークショップのユニークな点。「普段、仕事をしているときは、“◯◯会社の阿部です”となりますが、今日はそれをやめましょう。大人の名刺交換はワークショップの最後にやることにして、グループ内は下の名前で呼び合いましょう」と、あっという間にグループ分け。初対面同士に戸惑う参加者をよそに、いざ園内へ出発です。

第一ラウンドは、午前中の約2時間。グループごとにまとまって探しているところもあれば、長い列になっているチームもありましたが、とにかく、みんな下を向いたり、植物に大接近したりと、知らない人が見たら不思議な集団です。「ここは園内だから良いですが、普通の道でやると危ないですし、ときにはコンタクトを落としましたか?などと声をかけられる」と阿部氏。

その後、「発見力を鍛えること」をテーマにしたトークを交えながらランチタイム。続いて、わずか1時間足らずの第二ラウンドです。この頃には、阿部氏がなかなか見つけるのが難しいという「G、Q、R、そしてH」といった文字を見つけることに集中したり、より芸術的なものを探したりと、グループごとに作戦を練りつつ、園内に散っていきました。

15:00にアクシスへ移動し、地下1階のギャラリー「シンポジア」で、阿部氏のトーク第二弾です。昨年10月、ベルリンで行われたライティングフェスティバルを題材に、建築やテキスタイルの学生たち20人とともに行ったワークショップの模様を映像とともに紹介しました。街じゅうがライティングされるフェスティバルをリサーチし、思いがけない影を探し、それがどういった影なのか、どのようにしてできているのかを分析、1枚のレポートにまとめるというものです。「shadow effect」「reflection effect」「movement effect」の3つの視点から影を探し、その見つけたエフェクトに名前をつけることが体操になる、と阿部氏は語りました。

約1時間のトーク後は、ステップ3とステップ4です。今日、初めて会った人同士が、顔を寄せ合って、1台のPCに向かうことを阿部氏は意図していましたが、はたして結果はそのとおり。グループ内でいちばん優れたアルファベットや数字を選び出す作業は、それぞれの視点の違いに気づいたり、お互いに刺激になったようです。

その後、各チームの作品発表と講評です。誰が見てもそれが数字やアルファベットとわかる完璧なフォルムというだけでなく、美しさや意外性に溢れ、その多様な視点に驚かされます。なかには、池に浮かぶ何枚もの葉が連なってアルファベットに見えるもの、葉の表面に照らされた光が数字を描いているものなど、発見者の執念というべきか、真剣な眼差しが感じられるものが多く、歓声の上がる作品も少なくありませんでした。

最後に阿部氏は、「デザイン体操は、毎日のなかでできること。帰り道に“今日は面白い影を探して帰ろう”“今日は動き”といった具合に集めることがおすすめ。そういうものをストックしておくと、新たな課題が与えられたとき、ゼロからでなく始めることができる」と語りました。

また、阿部氏にとっては、プロのデザイナーを対象としたデザイン体操のワークショップは今回が初めて。「さすがのクオリティです」ととても満足げな笑顔を浮かべていたのも印象的です。

「製本など技術を学ぶワークショップはたくさんあるが、自分を発見するものは初めてで、貴重な機会になった」「なんとなく迷いを感じていた日々だったが、発見や想像の楽しさが再確認できた」「ほかの参加者の方から良い刺激を受けた」など、みなさんの表情が、最後にはイキイキと輝いて見えました。

vol.2では、参加者のみなさんの作品を紹介予定です。どうぞご期待ください。

阿部雅世のワークショップについては阿部雅世さんのサイトMasayoAve creationまで